内容説明
電気工をしていた20代にアスベストの被害で肋膜炎にかかり、以後、喘息の持病を抱えながら作家活動を続けている、私小説作家・佐伯一麦氏の連作短篇集。 アスベスト被害で著者自身のなかに、肉体的欠損感覚が存在している。 そのことを緒にして、著者を思わせる主人公が、さまざまな肉体的欠陥を持ったひとびとの「欠損感覚」を探っていく物語。 視覚障害の夫婦、義足の女性、声帯を失った作家、嗅覚障害を患った寿司屋のおかみさん、盲学校の先生、聴覚障害者、そして記憶を失った板前の話……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐伯
32
とてもすばらしい作品です。 やっぱり佐伯さんの作品はいろいろと考えさせられるものが多いですね。 今回の作品は障害者の話。あーそうなんだ!って読んでて何度も感じました。時間をかけてじっくり読んだのでとてもいろいろと感じることがあって、とてもよかったです。 ほかの作品も読んでみたくなりました。2015/04/17
百太
21
再読。そうそう、視覚支援学校弁論大会で震災についての弁論があまりにも少なかった事に私も、ちょっと驚いたなぁ。2019/01/08
百太
21
身体の機能の一部を失った人のエッセイに近い短編。静かに諦めてる感じがします。2015/03/07
kawa
17
障害を持つ人の日常の行動や感性が、障害者の立場で描かれる。日頃、ここまで立ち入って話しをしたことがないので興味深く読めた。「奥新川。面白山高原。山寺。」が好み。温泉場で震災に遭遇した英国人夫妻の不安感が身につまされる。2017/02/04
遠い日
9
欠損感覚を通して身体感覚を探る連作短篇小説。聴覚、視覚、嗅覚、声、足、記憶の欠損によって、感じる世界をインタビューを通じ、本人のことばで語ってもらい、やりとりしながら探るという手法で書く。ないはずの足にも気が巡るという不思議があれば、笑い顔を見たことがないゆえ想像もできないという本当。嗅覚の欠損による世界の静けさなど、独特の感覚を感じ受け入れる心のさまが、リアルだ。3.11を挟み、2編が紡がれたが、やはりそれ以前とは色が異なる。そこから喚起された意識が鋭い。2013/09/25