内容説明
温室での洋蘭の栽培に全身全霊を捧げる美しい義姉。彼女が育てる人面花を巡る悲劇と戦慄の真相を描いた表題作ほか、花・星・蟲・鳥を題材として、幽玄の世界のうちに技巧を尽くした傑作ミステリ短篇集『月下の蘭』。かつて公安警察の鬼と呼ばれた盲目の老人と、彼の愛娘が伴った謎の客との会話が思わぬ過去を暴き出す「夜のジャスミン」ほか、男女の愛憎を中心に据え、鮮やかなツイストで読者を唸らせる『殺人はちょっと面倒』。幻の2冊を合本にて贈る。『血の季節』『弁護側の証人』など大胆な仕掛けで世を驚倒せしめた著者が、歌舞伎、能楽などの古典芸能をモチーフとした8篇を収録。【収録作】『月下の蘭』「月下の蘭――春は花」「残酷なオルフェ――夏は星」「宵闇の彼方より――秋は蟲」「ロドルフ大公の恋人――冬は鳥」/『殺人はちょっと面倒』「ラヴ・ホテル〈瀧〉にて」「殺人はちょっと面倒」「夜のジャスミン」「空白の研究 A Study in Blank」/『月下の蘭』初刊本あとがき/編者解題=日下三蔵
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
67
「月下の蘭」はウェルズの某作品を思い出しながらも夫に軽んじられる女にはスッキリするかも。個人的に野分夫人が「あの子」を褒めてくれたのがホッとしたし、嬉しかった。それにしても本当にどうしてこの姉妹は、互の伴侶を取り替えなかったのか、不思議な位だわ・・・。「残酷なオルフェ」も若造の浅知恵よりも年の功の方が上でしたね。参りました。「ロドルフ大公の恋人」は最後の数文が一番、怖かった。この悲劇は本当に人の意志が最後まで介入していたのか。しかし、案内人さんの言葉の方が胸に来ますね。2018/05/14
ヨーコ・オクダ
27
昔に出版された2つの短編集をドッキング。小泉センセが愛する歌舞伎、能などの日本の伝統芸能と海外ミステリ。彼女なりに感じた両者の共通点を意識して、それぞれの作品へエッセンスを注入。女性の美しさ、醜さ、優しさ、残酷さ、執念、強さ、儚さ…等々が絡む犯罪の数々。どれも後味が悪い方向へ進みそうな気配を見せつつも、うまく回避して洒落た感じに収まるのがスゴい。表題作の2本は当然オススメやし、その他では「残酷なオルフェ」「ラヴ・ホテル<瀧>にて」「夜のジャスミン」もお気に入り♪2019/10/29
寒っ!!
10
全編を通して女性の強い執念を感じる。ホラー風味も興趣を添える。2021/07/09
山猫
9
読みでがあります。でも、小泉さんのミステリーはお洒落で垢抜けているから、すんなり読めてしまう。ファンの贔屓目だとしても、今読んでもその洗練された雰囲気は少しも損なわれていない。2018/04/08
ぶうたん
9
歌舞伎をモティーフにした短篇集2冊の合本だが、それぞれで印象は相当違う。「月下の蘭」は怪奇趣味に溢れた後年の「血の季節」にも通底する作品集でとても好みで楽しかった。著者の短篇集としては割合と収録作の風合いが統一されている方ではなかろうか。それに対して「殺人はちょっと面倒」はひねりを意識した作品集で、ミステリとしては弱いと感じる作品もあり心から楽しめたとは言えなかった。日下さんとしては1冊の完成度にこだわったものと想像するけれど、あえて言うなら本書についてはもう少しおまけが欲しかったかな。2018/03/21