内容説明
傷心を癒す旅に出た若い女性香島紀子は、東北地方の山間の村で、急に水量が増した川の岩場に取り残される。岸に戻ろうと水に入った紀子は流れに呑まれそうになるが、ロープが投げられ辛うじて救出された。助けてくれたのは、土地の若者埴田晃二で、その夜晃二の家に泊まった紀子は彼に抱かれる。翌朝目覚めると晃二の姿はなかった。村祭で賑わう神社に行き、村人に尋ねると晃二はひと月前に毒殺されたと告げられた。では彼女を助け、晃二と名乗った人物は誰なのか? 文学的な香気漂う描写の陰から、著者が仕掛けた謎が妖しく浮かび上がる……?!/解説=綾辻行人
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しんたろー
200
泡坂妻夫さんを35年ぶりに読んだが、その類稀なる才能を改めて思い知った。ダム建設で沈みゆく寒村で起こった奇妙な事件…昭和が色濃く、官能描写も度々入るのに、世俗やエロに偏ることなく、時には文学的に、時には本格ものとして展開してゆく物語は、妖しい雰囲気に浸れた。犯人やトリックは終盤に入ったところで判ってしまったが、価値を堕とすものではない。なぜなら、似たような人物設定&トリックが後発の作品で多用されることになる先駆的な作品だからだ。著者得意技の「からくり」ミステリではないが、古典的恋愛ミステリとして楽しめた。2020/02/06
Tetchy
195
価値の多様化が顕著になった昨今では、この真相のファクターが特に奇抜さを齎さなくなってしまった。しかし、それでも尚、作者は手練手管を使って読者を煙に巻く。この謎の解明は素晴らしい。しかし本作を読んで痛感したのは、時代がオープンになればなるほど、我々の常識が崩され、謎という暗闇が小さくなってしまう事だった。2009/04/18
相田うえお
172
★★★☆☆17083 この本を開いた読み出しから既に不思議な話がはじまり、その神秘的な情景描写を越えると、もう想像許容を越えるところまできていました。各章が人物目線を対象軸とした合わせ鏡の様に思えたり、ある事象がマトリョーシカの様に錯覚してしまったりと夢か幻か?謎は深まるばかり。後半では、断片的だった事実のひとつひとつが少しづつ繋がっていくのですが。。とか書きましたが、ラストが近付いたら話が急にラフになって思わぬ展開になってしまいました。2章までが傑作的流れだっただけに勿体無い。とは言え絶対におすすめ!2017/08/23
chiru
144
本物の伏線の醍醐味ってこれだ‼と思った一冊。ダム開発に揺れる寒村。そこに暮らす男性が川で溺れた女性を助け、二人は一夜を共に。しかし男性は1ヵ月前に死んでいた! その謎と、ループのように繰り返す別の女性との情事。定番進路とは明らかに違う路線。本気で驚いたのは、濃厚な官能シーンの描写、ひとつひとつに意味と伏線があったこと‼ 真相は『このトリック以外ない』と言い切れるほどの潔さ。伏線を伏線と感じさせない、確信犯的な大量伏線の謎解き後も、幻想的で美しい情緒を壊してないのが凄い。見事な傑作でした‼ ★52020/01/19
かみぶくろ
130
ひと昔前のミステリーって文学要素もかなり強いよなあって改めて思う作品。文章は丁寧かつ繊細で、霧の中を彷徨っているような雰囲気を醸し出しているし、官能描写は情感があって美しい(こんな恥ずかしい描写をよくそんな語彙で表現できるな、って苦笑もあるけど)。肝心の仕掛けの方は、やっぱり大抵のミステリー読書ならうっすらと途中で気付くとは思いつつ、伏線が巧みで納得感の方が強かった。三島の沈める滝なんかを思い出しながら、ダムって人を惹きつける何かがあるんだろうなあと考えたりもした。2017/05/06
-
- 電子書籍
- 霊能者になれなかった刑事
-
- 電子書籍
- 一瞬で人に好かれる話し方 学研M文庫 …