内容説明
個人情報を提供する見返りとして、生活全般を保証する実験都市アガスティア・リゾート。理想的な環境で生きる人々が向き合うのは、進化と未来を啓示する“永遠の静寂”だった――『ゲームの王国』で話題を呼ぶSF新世代の俊英がユートピアの極北を描き出す! 解説収録/入江哲朗
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
121
小川さんの「地図と拳」を読んで楽しめましたので他の作品ということで読み始めました。日本人の作家でこのようなSFというかユートピア(ある意味ではデストピア)小説を書ける人がいたのかと思いました。ジョージ・オーウェルの「1984」をイメージしてしまいました。6つの連作小説でこのような都市が今後近い将来には出てくるのでしょう。ある人にはどうでもいいことが気になる人がいるということですね。2023/05/16
おかむー
71
AIと情報化の行きつく理想社会を、その流れに加われない視点から描いたディストピアSFとでもいえばいいのか。ハヤカワSFコンテストで大賞を受けた作品だそうですが、正直ありがちな哲学的ディストピアものという印象。『もうすこしです』。個人情報をほぼすべて供出することで豊かな生活が保障される実験都市の辿るさきにあるものはエヴァの“人類補完計画”なのか伊藤計劃『ハーモニー』の結末なのか。どこかで見た設定の別視点スピンオフという印象で新鮮味に欠けるのが残念。2018/01/06
かみぶくろ
56
3.8/5.0 アカデミックな秀才ぶりが溢れんばかり。管理社会×ディストピアものだが、ディテールのリアルさや哲学にも似た問題提起など、読み応え抜群で面白かった。群像劇の形を取るが、物語の展開と到達って意味では、若干の不完全燃焼感が残る。2023/07/31
ざるこ
53
個人情報なんてそこら中にダダ漏れだと思ってる私にとって全ての個人情報を提供し報酬を得て自由に暮らすアガスティア・リゾートという実験都市は形としてはあり得るのかなと。そんな特別区での生活に慣れるのか、疑問を持つか。都市の発展を喜ぶのか、反発するのか。都市の在り方への苦悩や葛藤の6編。女性より男性の方が病みやすいような印象。納得。4章のドーフマンのキャラがユニークで良いけど以降は哲学的。悪があるから善があり、不自由があってこそ自由を感じる。「不自由のない豊かな生活」と「監視されてない自由」その意義。むむむ…。2020/07/31
Tαkαo Sαito
39
単行本の方で読み終えてから5年ぶりの再読。SF小説のお勉強として読み直してみたがやはり面白く、1日で読み終えてしまった。人間に「意識」が一切なくなった静寂が支配する世界では、人間も思考も全て一つに混ざり合って液体のようなものになってしまうのかもしれない。上田岳弘さんの「ニムロッド」に通じる観点もあるような気がした。小川さんの「嘘と正典」も好きだが、買って積読にしている「ゲームの王国」はまだ読めていないのでこの流れで読みたいと思う。2021/02/14