内容説明
カリフォルニアのオレンジ郡保安官事務所麻薬課のおとり捜査官フレッドことボブ・アークターは、上司にも自分の仮の姿は教えず、秘密捜査を進めている。麻薬中毒者アークターとして、最近流通しはじめた物質Dはもちろん、ヘロイン、コカインなどの麻薬にふけりつつ、ヤク中仲間ふたりと同居していたのだ。だが、ある日、上司から麻薬密売人アークターの監視を命じられてしまうが……P・K・ディック後期の傑作、新訳版
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
139
たぶん映画は見たのですが、あまり印象がよくなかったので忘れていました。キアヌ・リーブスや今はやりのロバート・ダウニィ・Jr.が出ていた覚えはあります。やはり読んでみると、かなりドラックがらみの話が出てきて、作者独特の世界、自分が本当の自分なのかわからないような感じでやはりSF分野に入るのでしょう。映画よりはいいと思いました。2016/06/15
やきいも
90
映画化されてます。映画「ブレードランナー」の原作者ディックによる小説。麻薬のおとり捜査官の主人公がドラッグにおぼれていく話。救いのないストーリーだったけど、何か心にひっかかるものがあった。機会があればもう一度読んでみたい。2016/11/22
藤月はな(灯れ松明の火)
53
ディックのドラッグ経験とドラッグにより命を失った人々への哀悼の意を込めて描かれた作品。マトリ(麻薬取締官の略。この話では麻薬捜査官)としてドラッグ常用者へ潜入捜査をしていた主人公。しかし、人格攪乱を薬物Dを摂取し続けた彼は自分で自分を監視するというパプティノコンによって自分をどうすることもできずに追い詰められていく。最初から描かれる覚醒剤の禁断症状として生じると言われる蟻走感やふわふわとした感覚が生々しい。最後の絶望的な状態なのに本人にとってこの上もなく、希望に溢れているように思えるのはなぜなんだろう。2014/08/20
催涙雨
39
今まで読んだ長編はせいぜい十作品ちょっとなのだが、本作から感じるものはそのどれと比較しても異質なものだった。アンチ・ドラッグ小説であることはもとより「アシッド・エイジへの鎮魂歌」としての私小説的な側面が強いというような旨の評論を読んで、かなり腑に落ちるところがあった。本作で〈ゲーム〉として登場する(以下引用)「集団攻撃療法は、作者自身がカナダで体験したもので、既存の主観的自我を壊すことで薬物依存をたち切るものだが、しばしば権力への盲従を促すと述べていた」らしい。訳者あとがきにも「自宅に対して軍事行動を思わ2018/09/13
かとめくん
24
麻薬潜入捜査官フレッドは最近流通し始めた麻薬「スロー・デス」の出所をつかむため、ヤク中仲間と共同生活をしながら捜査しているうちに、自らが容疑者となり監視を命ぜられてしまう。自分で自分を見張る行為は自らを見失しない、ついには…。体験者でもあるディックの描写はすごくて最初のアリマキのインパクトから始まり、次々に悪夢が襲ってくる。現実は腐食していき、酩酊と苦痛を繰り返す登場人物たち。行きついた先の施設でのリハビリ(?)の静謐な風景。久しぶりにディックの世界を堪能しました。2017/06/07