内容説明
イズムの角逐や苛酷な他者攻撃を経験してきた20世紀を経ながら,新世紀の世界は,宗教・民族間問題の先鋭化と同時に,グローバル化による画一化・一元化に直面している.真の相互理解や協調は可能なのか.その鍵となる「文化の多様性」の擁護をめぐって,理念・現状・課題を,文化人類学者としての豊富な経験・観察と共に具体的に説く.
目次
目 次
序章 世界は、いま
第1章 文化という課題
1 文化とは対立するものなのか
2 宗教・民族の課題
3 理想の追求
第2章 文化の力
1 ソフト・パワーの時代とは
2 現代都市と文化の力
3 魅力の追求
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ネムル
11
911とそれに続く混乱を受けて描かれた、2003年の作品。ハンチントン『文明の衝突』や結局は無理解・無関心に繋がりかねない文化相対主義に対して、如何に多文化世界を目指すか。それに対する氏の答えのひとつがソフト・パワーである。政経の場におけるイデオロギー的な共感という点では、日本にしてもアメリカにしても眼も当てられないようなものだ。一方で、外から見た文化的魅力については、少なくとも日本はよくなっているか。ここ十数年で多文化世界への良い歩みも悪い歩みも二極化・深刻化したということだろうか。2017/04/02
はりねずみ
8
再読。多文化主義にいたるまでの変遷が興味深かった。人間の共通性、共感能力が多文化主義の限界を補う。様々な価値を認めるからといって、ナチズム、原爆投下にみるような大量虐殺などは認められない。そこは人類共通の合理性を働かせるべきだ。そして人類共通の合理性を求める時、強い文化による統制と排除に注意しなくてはならない。理想は、真実は複数ある。各文化が各理想を追求し、それが排他的自尊心にならないようにすべき。著者のソフトパワー醸成案は少し理想的すぎると思う。そうなればいいが、人口過密からくる弊害はどう乗り越えよう?2014/01/21
松風
8
『異文化理解』より、こちらの方が筆者の意見が掘り下げられている。ハードパワーに裏付けられないソフトパワーという考え方に諸手を挙げて賛同は出来ないが、筆者はその限界を認識しつつ、一国の「パワー」としての側面ではなく、国民国家の枠組みを乗り越えて「混成」する文化の役割について考察している。しかし、二章後半の都市論や大学論はあまりに楽観的過ぎ、安易だと感じる。入門書レベル。2014/01/07
isao_key
5
「多文化世界」とは、単に世界にはいろいろな文化があって、それが重要だといった認識にとどまるのではなく、それぞれの文化が、文化度を高める積極的な努力をすることによって、ひとつのグローバルな世界を構築していくという意識の現われとなる世界のことだという。本書では特にアメリカの国際政治学者ジョゼフ・ナイ・Jrの論文からソフト・パワーについて考察している。ソフト・パワーの事例としてバチカンを挙げる。ハード・パワーはなにもないバチカンだが、ローマ法王の発言が世界で取り上げられることで大きなソフト・パワーになるという。2013/11/24
Sobbit
3
文化は様々な形で現代に存在しており、大体は「文化だいじに」の方針で世間は動いているが、しかし文化について語ることは時に、他の文化を持つものに対する拒絶や威圧を示すことがある。本書で筆者は対イラクのアメリカの「神の国」スピーチなどで例をあげている。グローバル化といったらアメリカを見習うという暗黙の了解を自覚し、むしろ今後日本が発展するなら、画一的なグローバル化ではなく、アジア的な要素を入れていくべきなのかなと思った。2020/05/15