内容説明
幸せな新婚生活を送っているかに見える津田とお延。だが、津田の元恋人の存在が夫婦の生活に影を落としはじめ、漠然とした不安を抱き――。複雑な人間模様を克明に描く、漱石の絶筆にして未完の大作。
(C)KAMAWANU CO.,LTD.All Rights Reserved
※本作品は電子書籍化にあたり、紙本に含まれていた次の要素を削除しております。
〈作品解説 佐古 純一郎〉
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
山口透析鉄
18
ちょっとどこの文庫で読んだか、これも失念していますが、漱石、なんだかんだと主要作品は概ね読みました。 この作品、完結まで書いていたらどんな作品になったのでしょうね?章題もふらず、新聞連載でずっと書いていたので、長いですし、決して読みやすくはないので……でも文豪の未完小説、というのには惹かれますね。 ラスコーリニコフに対するソーニャ、出てきそうなところで終わってしまっているようだったのが残念でならないです。1982/09/25
米笠鹿
10
津田とお延のあれやこれ。狭いコミュニティの中のもどかしさが現実に則しており、その人間関係の微妙なずれから生まれる心理描写に大幅のページ数を割いている。所作一つ心情一つをこぼさず文字にしているのだから本の分厚さも頷ける。かといって冗長かと言えばそんなこともなく、人物と景色が浮き上がってくるばかりだから、漱石の文章のパワーを感じる。今読んでも古くささが一切ないことが凄い。絶筆になってしまったのは悲しいけれど明るく救いがある続きの想像は自由にできるのだから、その余白を楽しむような気持ちで余韻に浸ろうと思う。2022/04/24
りっとう ゆき
5
未完。もっと読んでいたかった。でも、自分なりの解釈で完結させた。 昼ドラ的ドロドロを美しくさえする詩的かつ的確な文章、間、会話。惚れ惚れするほどの心情表現(それが妄想、疑心暗鬼、自己嫌悪といった醜いものでさえも)。秘める人たちは回りくどく、もどかしい。ただ、それが渦中にいる人たちのありのままなのかもね。そしてその内側の言葉にできない感情も表現しまう、これこれ。 うん、やっぱり漱石作品だな。 ただ、以前の作品の激しさ、苦しさとはまた別の種類の作品のような気がした。次の次元に行こうとしてたのかな、などと。2019/08/05
このこねこ@年間500冊の乱読家
2
⭐⭐⭐⭐ 漱石、なんで途中で死んじゃったん……?未完の作品ですが、続きが読みたくて仕方ない。 『虞美人草』以来の女性主人公で、ちゃんと女性の心情にもスポットライトが当たっていて、非常に興味深い。 晩年は悲劇ばかりの漱石ですが、きっとこの作品はハッピーエンドなんですよね?2021/10/06
Masashi Onishi
2
自我とは何か、問われてすっと答えられる人はそう多くない。日本近代は、西欧を礼賛し多くのモノを輸入した。その中には個人主義も含まれる。この個人主義も「快楽主義的な自我追求」と「社会関係において自己実現を志向するもの」として、浸透していった。本作がエゴイズムの相克と評される場合、勿論前者を指す。漱石自身は「我々は他が自己の幸福のために、己の個性を勝手に発展するのを、相当の理由なくして妨害してはならないのであります。」(私の個人主義)として後者の立場である。本作で漱石を苦しめ続けた自我というものの正体を知る。2019/05/10