内容説明
香芝涼子は今日も、閑古鳥の鳴く店でひとり店番をしている。二年前、店主の祖父が病で倒れた際、美術館の学芸員という職と恋人を捨て、実家の『藤屋質店』に戻ってきた。将来に漠然とした不安を感じつつ、看板猫を撫でていると、外国製の陶製人形を男子大学生が持ち込んでくる。男性二人組という質屋には珍しい客に当惑しつつも、品物を預かって貸し付けしたところ、後にそれが盗品だったと分かり……。人間国宝作の萩焼の写し、いわくありげな櫛とかんざし、未発表の藤田嗣治の絵画など、不思議な縁で質屋に持ち込まれた品々を巡る謎、揺れ動く涼子の思いを優美に描く連作ミステリ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
🐾Yoko Omoto🐾
130
理由あって美術館の学芸員の仕事を辞め、祖父が営む老舗の質屋で見習い勉強中の涼子。画家として名を馳せた亡き父が彼女に遺した一枚の絵、祖父の友人が質草として持ち込んだ不可解な絵、実在した画家「藤田嗣治」の生涯、それらを連作全体に謎として撒きながら、質屋に持ち込まれる品々に纏わる人間ドラマを描いたミステリ。値が付く物に関わるシビアな側面を見せるも、古物の蘊蓄や涼子の恋の行方などをバランス良く絡め、人それぞれにドラマ有りという読後感の良いテイストに仕上がっている。藤田嗣治という画家にとても興味が湧く作品だった。2017/12/31
ままこ
76
質屋を舞台に元学芸員が人と芸術品に絡んだ謎を解く。持ち込まれた品物の蘊蓄もなかなか面白かった。上品な感じの連作ミステリ。2018/09/28
mii22.
66
美術館の学芸員をやめ家業の質屋の見習いをはじめた主人公の元に持ち込まれる品物にまつわる連作ミステリ。藤田嗣治を題材にしたお話があると読友さんのレビューで知り、現在開催中の藤田嗣治展を観に行く前に読んでみたかった。絵画に描かれた人物や風景などにはそれぞれそこに描かれるまでの経緯やドラマがあるものだ。現実にも「八重子の肖像」のような哀切なエピソードをもった絵が描かれていても不思議ではない。絵に隠されたドラマチックな物語に思いを巡らし、ひとつひとつの作品をじっくり観賞したいものだ。2018/11/13
九月猫
52
浅野さん初読み。ああ、イメージしていた通りの落ち着いた文体。骨董、美術についてもわかりやすく興味を誘ってくれ……北森鴻さんを思い出して感傷的になりつつ(そろそろ北森作品の私の封印を解かねば)。それはそれとして。美術館の学芸員から実家の質屋の見習いに入った涼子の、店に持ち込まれる骨董を巡るミステリ、おもしろかった。過ぎ去った時間、いろんな形の愛情。推測も含め、切ないいきさつを経てもどれも温かい想いにたどり着いてじんわりする。涼子自身の恋模様も気になるので、続編が出るとうれしいな。2017/12/02
ami*15
41
人間が作る様々な「もの」は人間の寿命以上に形として残り続ける。過去の人間が作った「もの」が長い時間形として残り続け、作品に込められた思いが人々に届くことはある意味運命ではないかと感じた。美術作品を見る時、ただ単に作品を見ての印象を思うだけではなく作品に込められた作者の思いを想像しながら鑑賞することも面白いかもしれない。美術作品の見方に対して新たな楽しみを感じさせられた作品でした。とはいえ美術に関する知識がわりと専門的だったので、理解しにくい点が多く読むのに時間がかかったというのが正直な感想ですかね。2018/05/25