内容説明
なぜ650年も続いたのか――。足利義満、信長、秀吉、家康、歴代将軍、さらに、芭蕉に漱石までもが謡い、愛した能。世阿弥による「愛される」ための仕掛けの数々や、歴史上の偉人たちに「必要とされてきた」理由を、現役の能楽師が縦横に語る。「観るとすぐに眠くなる」という人にも、その凄さ、効能、存在意義が見えてくる一冊。【巻末に、「能をやってみたい」人への入門情報やお勧め本リスト付き】
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tonpie
48
岩波「謡曲百番」をパラ読みして能に畏敬の念を抱いていたが、実際の能舞台を一度も見たことがなく、今秋初めて観る時トリップしそうな予感があって読んでみた。著者は能楽師で、権威主義的ではなく、非常にオープンでフレンドリーな方のようで、自分がビックリしたこと、惹かれたことをそのまま書いていて、嫌みがない。江戸期に、演じる時間が2~3倍になって、今のようなスローな能になったというのは驚いた。「室町期の能はラッブのようなハイスピード」というが、これはぜひ学術的に再現してほしい。NHKあたりにやって欲しいな~。↓2024/05/29
あっきー
13
✴3 能を見ると脳に内蔵されている 脳内AR(拡張現実)が活性化して、見えないものが見え聞こえないものが聞こえるそうだ、松尾芭蕉、夏目漱石は能とのつながりが深いという章が面白く、おくのほそ道、草枕を読みたくなった、昔は寺子屋でも 謡は基本教科で習っていたし、大工も魚屋も結婚式でも謡が謡われていたらしくちょっと興味がでてきた、能についてこれまでにない見方ができる刺激的な本だ2017/10/28
えいこ
12
能に少し興味を持った人に、全般的な手ほどきをしてくれる本。安田登さんの解説は、専門的すぎず読みやすい。昔はもっと速いテンポで演じられてたとか、犬王の話はまんざら誇張でもないのか。歴史的な成り立ちや、文学との意外な関わりに驚く。奇しくも、芭蕉の「奥の細道」についてアンテナが向いていたところ。紀行文ではなくフィクションであることは知っていたが、夢幻能としての解釈は新鮮。2022/12/25
みのくま
11
本書を読むともっと能について知りたくなる。新書なのでどうしても入門書の入門書みたいになっていて物足りないが、能に対する興味は持続しているので著者の術中にはハマったのだろう。特に世阿弥と松尾芭蕉についての考察は面白かった。権力に恭順を示す行為としての芸能を逆転させた世阿弥は、鈴木忠志の用語を使えば「芸能から芸術」へ昇華させたという事だろう。また、源義経の鎮魂(=幕府への恭順)を目的に東北を旅した松尾芭蕉も、その秘中には既存の俳諧界からの独立があった。芭蕉は「ワキ方」として幽玄を召喚し俳句を芸術に高めていく。2019/11/17
nishiyan
10
現役の下掛宝生流の能楽師である著者による「能」の入門書。近年、観世宗家を筆頭に能楽師による著作が多い中、コンパクトでわかりやすく書いてある入門書だといえる。いわゆる入門書とは違い、能そのものへの概要や舞台の構造などを述べた後に謡曲の解説が続くというものではなく、豊臣秀吉、松尾芭蕉、夏目漱石といった一般の方にも馴染みのある歴史上の人物との関わりを記すなど、かなり取っつきやすく作られている。最後の付録がさらに能への誘いとなっているのも良い。新潮新書には珍しい良書ですね。2017/10/30