内容説明
第四作品集に至っても、未だに驚異的なクオリティーを保つ〈ブラウン神父〉シリーズ。容疑者の詩人の不可解きわまりない行動の謎「大法律家の鏡」、この世の出来事とは思えぬ状況で発生した金塊消失事件「飛び魚の歌」、強烈な真相が忘れがたい「俳優とアリバイ」、常識をはるかに超えたユーモアと恐怖の底に必然的な動機がひそんだ「ヴォードリーの失踪」など全10編を収録する。〈ブラウン神父〉シリーズの精髄ともいうべき逆説とトリックの凄みが横溢する、巨匠チェスタトンにしか書きえない名短編集。【収録作】「ブラウン神父の秘密」「大法律家の鏡」「顎鬚の二つある男」「飛び魚の歌」「俳優とアリバイ」「ヴォードリーの失踪」「世の中で一番重い罪」「メルーの赤い月」「マーン城の喪主」「フランボウの秘密」/解説=高山 宏
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
101
★★★☆☆ ブラウン神父シリーズ第4作。 最初と最後が繋がっており、その間にいつもの短編が挟まれる形式になっている。 なかなかおもしろい趣向だと思うが、各話の質としてはこれまでのシリーズの中では低い方だと感じた。 ただしシリーズ中では目立たないというだけで、決してつまらない訳ではない。中でも『大法律家の鏡』と『世の中で一番重い罪』がお気に入り。 『メルーの赤い月』も地味だけど悪くなかった。 他のは少し非現実的過ぎたり、論理が飛躍し過ぎたりする。特に『飛び魚の歌』は本当にやれば普通にバレそうだ。2019/11/25
aoringo
76
毎日お昼休みに一、二篇ずつ読むのを楽しみにしていたのだけど読み終わってしまった。どうして人が隠しておきたい悪事を暴くのか、ブラウン神父が持論を語るシーンが印象深かった。聖職者視点で犯人の内面まで深掘りするので、相手は言い逃れできない。フランボウとブラウン神父の姪が登場!2024/08/12
のざきち
14
ブラウン神父シリーズ第四短編集。隠居した元相棒フランボウを訪れたブラウン神父。近所に滞在しているアメリカ人観光客から探偵理論を尋ねられた神父は、過去に解決した事件を例示することでその探偵法を明らかにしていく...第四弾ともなるとさすがにマンネリ化しそうですが、冒頭と末尾の書き下ろし短編で八編の短編を挟むことで連作としての一貫性が生まれ、独特の雰囲気を醸し出しています。本書の推しは「ヴォードリーの失踪」と「マーン城の喪主」。2020/10/28
ハルバル
11
さすがにトリックの新鮮さは薄れてきている一方で、ブラウン神父の思想(ひいては作者の思想)には深みが出てきて、初期以上にハイ解決、では終わらないところがいい。ブラウン神父は人間の本質を見抜く目を持ち、たとえ犯罪者であっても改悛した者への態度は慈愛がこもっている。反対に、傲慢という悪魔に取り憑かれた人間を厳しく断罪する。個人的に、もはやミステリーとしてのトリックは体裁というかオマケみたいなもので、作者が本当に書きたかったのは解決後の説諭なのかもしれない。フランボウがすっかり良いパパで笑った2017/09/02
73番目の密室
8
数年ぶりのブラウン神父シリーズ。長らく海外ものから遠ざかっていた翻訳アレルギー者にはチェスタトン作品は厳しかったのか、予想外に読了まで時間を食ってしまった。とはいえ現代日本に於いても通じ得る風刺・諧謔・逆説の数々を堪能でき満足。この時代にこれだけ俯瞰的に物事を捉えることができた著者は改めて偉大である。神父独特の推理方法も開陳されており、シリーズファンには必読の1冊だろう。そしてやはりフランボウは見事な相棒役だった。引退は残念…個人的ベストは『大法律家の鏡』。詩人の奇妙な行動の理由付けが素晴らしい。2018/01/19