内容説明
すべての精神疾患がコントロール下に置かれた近未来。10棟からなるその病院は、火星の丘の斜面にカバラの“生命の樹”を模した配置で建てられていた。ゾネンシュタイン病院――亡くなった父親がかつて勤務した、火星で唯一の精神病院。地球の大学病院を追われ、生まれ故郷へ帰ってきた青年医師カズキは、この過酷な土地の、薬もベッドもスタッフも不足した病院へ着任する。そして彼の帰郷と同時に、隠されていた歯車が動き始めた。25年前にこの場所で一体何があったのか。舞台は火星開拓地、テーマは精神医療史。俊英による初長編。/解説=牧眞司
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かみぶくろ
116
ハード過ぎないSF。膨大な参考文献に支えられた精神医学史の薀蓄には迫力があるし、この知的な語り口はなかなかに魅力的だ。大量投薬で地球上の精神疾患ほぼ解決したはずなのに、突発性の自死が止まらない、っていう設定に個人的には深みを感じた。真に哲学的な問題は自殺ということだ、って言ってたカミュを思い出した。2017/08/08
おかむー
90
既読の二冊『盤上の夜 』『ヨハネスブルグの天使たち 』に比べれば難解さはなく読みやすい。娯楽作品としてみれば微妙ではあるけれど、そもそもが精神医療のありかたへの思考実験的な作品なのだろうか?『もうすこしです』。序盤に心の闇に踏み込むような素振りを見せる割には、終始淡々とした主人公の語り口のため“追い込まれる感”が感じられない。終盤に明かされる主人公の生い立ちによってその理由は明かされるのだけれど、それゆえに全体に“熱”が感じられなく、物語の展開も含めて不完全燃焼といった感触。2017/09/03
そる
82
SFってこんなにおもしろかったんだ!宮内悠介さん、リサーチがすごくて、この分野の人?と疑うくらいです。その他の話も期待します!エクソダスというのは脱出という意味。舞台は120年後の火星の精神病院。精神医療の歴史、今後はどうなっていくかについての話。好きな世界です!「「この病院に来て、他者に興味を持ち、しっかりと話を聞いてみたことは?お前の同僚がどのように生き、どのように物事を感じるのか、お前は考えてみたことがあるか?」」「人が狂い始めるきっかけというものは、小さな善意であったりするのかも知れない。」2018/08/17
ゆいまある
64
精神科医が読んでも面白かったです。未来の火星では、医療スタッフも薬も足りないのに単一の精神病(エクソダス症候群。症候群なのに単一疾患という矛盾)が大量発生。薬がないので監禁してロボトミーのような外科手術を施すという昔の精神病院に戻っています。アンドロイドは電気羊の夢を見るか?を思い出す、自分の居場所がないような、どこか悲しいSF。世界感がいい。フルニトラゼパム2単位打ったら呼吸抑制来そうなのにSpO2上がるとは火星では代謝が異なるのか?MAOIは双極性には使わない。そもそも無理に入院させなきゃいいのでは。2018/09/27
カムイ
49
初読みの作家です。久しぶりのSF、読みやすかった精神分析が主なストーリーですが難しくなく分かりやすくちょとした揶揄を交えてクスリと来るところもあった。未だに精神疾患は解明されていないので現在では薬の多量投了などする医者がいるのでそれこそ患者を廃人にする。SFであるがミステリー要素の方が強いかもこの先も作者を追いかけてみよう。2023/11/19
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