内容説明
京都の町家旅館で祖父母に育てられた、若い女性の揺れる心情を描く「小説すばる新人賞」受賞第1作。京都の小さな町家旅館・山吹屋に生まれた夏目若葉は、父を知らず、母も幼い頃に失踪したため、祖父母に育てられた。旧来のスタイルを守り続ける山吹屋は、グローバル化の波が押し寄せるなかで、年老いた祖父母の手で細々と経営が続けられていた。旅館を継ぐ決心がつかないまま20歳を過ぎた若葉は、祖父の伝手により、老舗の大旅館で新米の仲居として修業を始める。一方、中学からの親友・紗良は、芸妓を志す。失敗を繰り返しながらも仕事を覚えていく若葉は、先輩からの厳しい叱責に戸惑い続ける日々を送っていた。そんなある日、山吹屋に買収の話が持ちかけられる。さらに、若葉が勤める大旅館にも激震が……。
目次
第一章 祇園祭
第二章 京の老舗
第三章 晩夏の京町家
第四章 帰るべき場所
第五章 波乱の紅葉
第六章 山吹屋の誇り
第七章 おことうさん
第八章 庭のぬくもり
第九章 静かな年明け
第十章 八坂さんの祈り
第十一章 葵の記憶
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆみねこ
78
中村理聖さん、初読み。幼いころに母親に捨てられ、町屋旅館を営む祖父母に育てられた若葉。高校時代にいじめに遭い、自分に自信が持てず、思いを上手く言葉に出来ない21歳。老舗の料理旅館に仲居として勤めながら実家の山吹屋を手伝う彼女の成長譚。若葉のいじいじした性格がちょっと鼻につきましたが、京都の四季とおもてなしの心を想像しながら読了出来、読後は爽やかでした。2017/07/03
どぶねずみ
38
これは若葉が自分の居場所を見つける物語。自分の居場所が定まらないから、何をやるにしても自信が持てない。または、その逆かもしれない。あの時は大変だったなぁと気づくのはずいぶん後になってからだけど、紺田屋で働く若葉はずっとそんな風に感じていたのだろう。動きが中途半端で人の目ばかりを気にしていては、結局空回りばかり。若葉の生い立ちもそうさせていたのかもしれない。時々泣ける良い話だったし、慎太郎との恋バナが気になるなぁ。2020/06/13
トラキチ
37
作者は小説すばる新人賞を受賞されており、本作が受賞後の二作目の作品となる。 京都の町家旅館の娘として生まれた主人公の若葉の成長物語であるが、父親を知らず祖父母に育てられいつか自分を置いて失踪した母親に会えるかどうかという希望を捨てずに現実にもがきながら生きてゆく様が読者に伝わってきます。シャキシャキした女性読者が読まれたら多少イライラするかもしれませんが、男性読者は可愛く思えそうなキャラとも言えます。伝わるのは、祖父母の孫に対する愛情であり挫けそうになりながらも立ち向かって行く姿が儚げで胸を打たれます。 2017/11/04
ともくん
33
幼い頃に、母に捨てられた二一歳の若葉。 ここではないどこかへ行きたいと願いながら、実家の京都の町家旅館で働き続ける。 自分の気持ちが分からなくなり、自信がなくなってしまう。 いつまで、こんな感じなのか… 果たして、若葉は自分の居場所を見つけられるのだろうか。 2023/09/16
Kei
32
私は、主人公にイライラしませんでした。大人の中で働くと、謙虚に下がってしまう。たとえ、若さがなく消極的であろうと、仕様がない面があります。ただ、立派であろうと思われた、二つの宿の大旦那さんが、かたや時代に逆行し、かたや実娘を許さず、意外なかたくなさを隠しもっていました。そう、京女よりも、もっと手強いのは、京男!先の展開は読めるけれど、シリーズ化してもらいたいなぁ~。2017/11/06