内容説明
英国から中国への返還が実現して20年。東洋の真珠とも呼ばれる世界的なフリーポートは、返還後も中国本土へのゲートウェイとして優位性を誇示してきた。
しかし、経済は中国本土に圧倒され、返還時に約束された「一国二制度」は「一国一制度」へと収斂しつつある。習近平政権は香港の自由を実力で奪い、各方面で対立が表面化。一部の若者からは「独立」の声もあがる。
上海、北京、広州など中国本土が急成長するなか、香港の相対的な地位低下が続いている。中国の国内総生産に占める香港の割合は3パーセントを割った。製造業は、コスト競争力はもとより、研究開発でも本土の後塵を拝す。国際金融センターとしての相対的地位は健在だが、行政の介入がマイナスに作用。傘下の本社登記地をケイマン諸島に移した李嘉誠など、大富豪たちの動静にもこれまでとは違う変化の兆しが見られる。英国流の教育制度は排除され、英語を話せる香港人も減少の一途をたどるなど、香港の優位性を支える基盤にも軋みが見られる。数多くの興味深いエピソード、背後にある文化や制度の変容から、混沌とも雑然とも形容される香港の実像を浮き彫りにする。
香港返還から今日に至る政治、経済、社会の深層に迫り、あらためて返還の意義を考えるとともに、今後の中国に対する視座を与える一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ののまる
12
これ、一番わかりやすい。本書出版以後、雨傘運動の学生指導者たちは実刑判決になってしまったし、ひとりは台湾に亡命希望、選挙で当選した6名(うち2名は当然だけど)も、議員資格剥奪になった。香港、どうなっていくのか。。。2017/09/04
BLACK無糖好き
11
返還後、居住資格をめぐる法廷闘争で香港が中国の意に沿わない司法判断をした際に、中国が「全人代による司法解釈」という手段で介入した事が前例となり、香港政府も軋轢を回避するため、自身の判断を控えて中国側の意向に委ねようとする。このような法の支配の崩壊から一国二制度も徐々に形骸化していく。中国の経済発展により香港の利用価値も相対的に低下し、逆に香港経済は中国に大きく依存する構造になった。香港の国際公共財としての価値も中華帝国の野望に飲み込まれて行くのだろう。不動産問題は香港政府の対応がお粗末との印象。2017/08/22
梅干を食べながら散歩をするのが好き「寝物語」
7
香港返還に関する英中交渉が始まった頃から、返還後20年に至るまでの中英政府の政策が語られた本である。2019年のデモについてはまだ触れられていないが、なぜこれが起こったのかの背景については、十分に推察できるだけの情報が掲載されている。香港を知ろうとする人は読んだ方が良い一冊である。2020/03/03
スプリント
5
香港は第2のシンガポールになると予想していたのですが、現実は中国の政治的・経済的圧力の下にあって発展しているとはいえない状況にあります。返還から現在に至るまでの経済・政治的な変遷を知ることができます。2017/08/26
アキ
4
香港がアヘン戦争でイギリスに割譲され、歴史の舞台に登場してから、1997年に中国に返還され、50年間は1国2制度を守るという約束が、この20年経って、徐々に中国共産党の思惑になってきている。独立という選択がない(逆に軍隊というものがないために経済都市として発展してきた)この地域に、中国と諸外国との貿易の窓口であった20年前と違い、現在は中国の一地域として臣下に下った香港に明るい未来はないように思える。むしろウイグルやチベットなどの少数民族を蹂躙してきた中国指導部にそんな気持ちは全くないことを知るべきだろう2017/07/29