内容説明
蝶の羽ばたき、彼方の梢のそよぎ、草むらを這うトカゲの気配。カールは、そのすべてが聞こえるほど鋭敏な聴覚を持って生まれた。あらゆる音は耳に突き刺さる騒音になり、赤ん坊のカールを苦しめる。息子の特異さに気づいた両親は、彼を地下室で育てることにした。やがて9歳になった彼に、決定的な変化が訪れる。母親の入水をきっかけに、彼は死という「静寂」こそが安らぎであると確信する。そして、自分の手で、誰かに死を贈ることもできるのだと。――この世界にとってあまりにも異質な存在になってしまった、純粋で奇妙な殺人者の生涯を描く研ぎ澄まされた傑作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
茜
43
最初のページに書かれた言葉の意味が最後まで読み終えるとわかるという本書。そして殺人という手段が彼にとってはただの殺人ではなくある意味を持った物であるということに重点がありました。常人では決して思いつかないだろう意味。それは彼の最後でもそうでした。終盤は驚きの展開でしたが彼らしい判断だと思いました。評価は★★★★★2017/12/22
あじ
36
静寂(せいじゃく)と静寂(しじま)を与えられず、この世に生を受けたカール。人を殺めながら辿る道々で、彼は愛への境地を拓いていく。水面の心音が水底の鼓膜を解放していく─羊水の中で彼はすでに悟っていたのだろう。作者のトーマス・ラープが語り聞かせるように紡ぐ、体温を帯びた文章が良い(翻訳含め)。死の残酷さから距離を置く、行間の静寂。★3.8/52017/07/21
星落秋風五丈原
29
悲しい殺人者。生まれた時に両親に病気の知識があれば違った人生を送っていたのかもしれないが、知識も外界の経験も何も与えられないままで限られた情報のもとで過ごせばこうなってしまうのかな。2017/07/06
かもめ通信
24
タイトルにつけられた括弧書きが示すとおりこれは殺人犯の物語で、おびただしい数の死が語られているのだが、残忍な印象も血生臭い表現もなく、読み進めるうちにただひたすら静けさが広がっていくことに驚かされる。蝶の羽ばたきさえも聞こえてしまうという主人公の数奇な生涯が、短く美しい文章でつづられていく様は思わず息を詰めてしまうほど。 作者と訳者の見事な連携が“静寂”そのものを描き出していかのようだった。2017/07/19
くさてる
18
サイコホラーやミステリとして読むと首をかしげるし、文学として読むのもなんだか違う。この主人公の特異さにどこまで共感できるかがカギなんだと思います。とりあえずその運命のたどり着く先が知りたくて、ぐいぐい最後まで読まされましたが、うーん……という読後感でした。2017/07/13
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