内容説明
井伊直虎は、戦国時代に遠江国井伊谷領を領国とした国衆・井伊家最後の当主だが、実像は殆ど知られていない。通説では井伊直盛の娘・次郎法師とされてきた。直虎の文字を記す史料はわずか8点。そのうち6点は井伊谷領で実施した「井伊谷徳政」と呼ばれる徳政に関するものである。解読が難しい「井伊谷徳政」の実態を明らかにし、戦国時代の徳政とはいかなるものであったのか、直虎とはどのような存在であったのかに迫る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Toska
12
主人公・直虎についての解説は手早くすませ、あとは「そんなことより井伊谷徳政の話を聞きなさい」という内容。大河ドラマ便乗本には違いないが、「売れる本」ではなく「出したい本」を出したような趣で、商売が上手いんだか下手なんだかよく分からない(売れたのだろうか?)。とは言え、こんなきっかけでもなければこのテーマで一冊本ができるとも思われず、変なところで大河の威力を思い知らされた。2023/03/22
BIN
9
大河ドラマ放送直前に井伊直虎は実は男でしたというの知り、本書できっと書いてるだろうと期待して読んだ。最初に直虎の出自を明記した資料の紹介とそれから考えられる家系図。関口氏経の子で新田の「おい」と記載されており、また判物が真名文(漢文)で書かれてることから明らかに男とのこと。その後は数少ない一次資料を元に井伊谷徳政について詳しく考察している。徳政は飢饉や戦のときに経済バランスを保つためにもよくなされるとか。戦国時代は徳政の時代だったらしい。非常に勉強になる。2017/12/28
あかる
8
「おんな城主」とされる井伊直虎の出自を再考すると共に、井伊谷徳政の過程を史料から丁寧に読み解く。新出史料等より、井伊直虎は今川家臣関口氏から井伊氏に養子に入ったもの(当然男性)とし、徳政文書が関口氏経・井伊直虎連名で出されている理由を実父の縁によるものとする。井伊谷徳政文書8通について、史料写真・翻刻・読み下し・現代語訳と丁寧に解説されており、史料から仮説へ至る道を辿る事ができる。直前に大河ドラマ展にて同文書を見ていた事もあり、その際に浮かんだ疑問もほぼ解決され、とても興味深く楽しく読むことができた。2017/08/15
kawasaki
6
井伊谷徳政についての史料を丁寧に読み込む本。華やかな物語性も、文字通り「ヒロイン」もいない、2つ3つの村の債務をめぐる地味でローカルな話なのだが、その中から井伊直虎と周囲の人々の生身の姿が浮かび上がってくる。amazonの書評で『井伊谷徳政の真実』のほうがタイトルとして妥当なのでは、などといった意見があり、確かにこのタイトルだったら直虎女性説の発生から流布までもう少し掘り下げられていたらなあとは思う。そもそも「徳政」とはとか、戦国時代の大名・国衆・村の組織・社会まで理解が深まる良い本。2018/10/15
こまさん
5
明快な考察と文章で井伊谷徳政について考察した良著。徳政の構造と人間関係がとてもよくわかった。そして直虎を史料に基づき関口氏の息子で、直虎の立場も従来とは真逆に位置付けたところに、黒田さんの史学・史料に対する真摯な姿勢がうかがえるのでは?2017/09/04