内容説明
失礼ですが御主人は? 収入は? 本籍地は? 保証人は? バブル後期の東京で“単身女性の安全な住まい”を求めて漂流する長編「居場所もなかった」に加え、後の“家族”キャト、ドーラ、ギドウ、モイラ、ルウルウをめぐる住居転々の短編。さらに不意の別れを描く「モイラの事」、その悲しみを越える単行本未収録の「この街に、妻がいる」、作者と猫の書き下ろし近況エッセイ二編も収録。
目次
前書き 猫道、──それは人間への道
冬眠
居場所もなかった
増殖商店街
こんな仕事はこれで終りにする
生きているのかでででのでんでん虫よ
モイラの事
この街に、妻がいる
後書き 家路、──それは猫へ続く道
年譜 山崎眞紀子
著書目録 山崎眞紀子
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
yumiha
31
剣道や柔道あるいは茶道や華道のような「猫道」と思い込んで読み始めた。それなのに猫が登場したのは、241ページ。それまでは延々と住む場所探しだった。オートロックや風水にこだわり、不動産業者やら男性編集者やらにメタクソに扱われるいきさつ。笙野頼子だもの、体調を乱し精神的にも追い詰められ夢と現を行き来する。私もいずれ引っ越さなければならないので、かなり身につまされた。そのプレッシャーをあれこれ数え上げ思い浮かべると、なかなか寝つかれなかった。また、全く猫と暮らした経験もないままに猫を飼い始めたいきさつに驚いた。2020/04/02
ふるい
16
生きるってしんどい。おまえはいったい何者か、と問われ続けることは。猫。ただ寄り添ってくれるものの有難さ。2018/11/10
ふくしんづけ
9
そこにあの人が立っていて、あなたはあなたですかと問うと、私は私の鏡像だと言うので、あなたはあなたの鏡ですね、と言うと、違う、私は影だ、と少し憮然として答えてくるのだ。そういう印象があった。影はいつまでもつかず離れず、その実感を掴めずにいるのだった。短編と長編合わせて七つの小説をひと続きの私小説と読むのは易い。だってそうじゃん、と一歩距離を取れば思うのだが、それでも文学という影は正体を失くしてついてくるのだ。何がここまで書きたがらないことを書かせるのか。映画監督のゴダールのような。明から朧になっていく世界。2020/12/17
葛井 基
3
ものすごく難解で抽象的なだけど心情がわかる観念小説から始まって、居場所もなかった作家が、猫と暮らすという呪文が現実となってヒトになっていく。いつにも増して心を抉る作品集。2017/03/24
熊野晶
2
全体の半分くらいまではほとんど猫の話が出てこないのですが、それがまた旧約聖書と新約聖書のようにbefore猫とafter猫って感じで、全体を通して読むと猫を中心に宇宙が回っている信仰の書という印象。 読んだことのある作品ばかりでしたが旧作を読み返す機会がなかなかないので、改めて過去作品の良さを再発見できて良かったです。言葉のリズムと語彙と人間観察眼が素晴らしい。中毒性があります。2017/08/06




