内容説明
いつだって、怪談はあなたのそばにある。
『ゴシックハート』『不機嫌な姫とブルックナー団』の著者による、江戸時代から現代までの怪談・奇談集。
怪談は、夜の学校や墓地だけのものじゃない。夕食時や散歩道、そういう何気ない瞬間、私たちが生活している空間すべてに潜んでいる??。
見えない「何か」が近くにいる感覚。その土地に伝わる奇妙な伝承。様々な伝説が残る石。至る所にあらわれる火の玉。美少年好きの天狗。果てはろくろ首の種類別考察まで。
古今東西あらゆるところで伝わる怪談を、高原英理ならではの視点でまとめあげた、怪談随筆の新定番。
目次
■記憶異変
ゐる話
逃げるか行くか行くまいか
変化数々
蛇の道
さまようこと、石のこと
玉のこと、火のこと
いるのか、いないのか
身体異変あちらこちら
少しだけ古めいた話
怪談の時間
■江戸怪談実話の迷い道
実話にありては作為推測を排すべし
現代にあるゆえ見出すべき興あり
過去の文脈を知るやよし、知らぬもまたよし
衆道に執念ありて異物にも遭う
心あり、心読む者あり、心なきあり、心いたわる者あり
道の辺に見出したるもの
北越に怪物あるの記
諸国異世界に転がるの記あり
降るもの喰うものの記
囃と鬼と、村の衆困惑す
伝説に耳傾けるいとなみあり
髪の導く先にいわくあり
天狗らの消息あらば、生まれ変わりの消息もあり
人はいずれを恐るるか
夢に見、うつつに現るること
恨みある腫れ物の記...ほか
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
193
昭和という時代は感情のやり取りが放恣というか直截というか、本書前半はそんな雰囲気に浸る事ができた。弟が顔を上げて「あ」と言ったというだけの話…家族が炬燵を囲んでいる際に弟が何かに気づき、それをまた兄だけが察する状況の気持悪さ。これは限りなく空気に近い怪談だが、そんな中に身の毛のよだつ話も混じっている。何となく濃淡が杉浦日向子の百物語に通じるような。後半の江戸怪談も、小さな違和感の幽けき話を集めた中に突如として火車、動物の変化、鬼女、屍喰ひ、人面瘡などナマの化け物の話がふっと混じる所に、独特の滋味があった。2021/08/15
HANA
63
怪談について語った随筆集。「記憶異変」と「江戸怪談実話の迷い道」の二編から収録されていて、後者は江戸期の怪談の紹介、前者はそれプラス現代の怪談となっている。前者も昨今の実話怪談に良くある凄惨な内容は少なく、どちらかというと火の玉とか奇譚に近いようなものが多かった。江戸時代の会談は言うに及ばず。蝦蟇の頭の上で釣りをした話や古い墓が磨かれていた話、天狗の話等は怪談にも関わらず読みながら駘蕩とした気分に浸れる。何より良いのは作者の怪談を語る筆が如何にも楽しげで、やっぱり怪談はいいものだと再確認できる事だった。2017/04/09
たいぱぱ
21
前半は著者の体験、収集した怪異譚・不思議な話。後半は江戸時代の怪談・不思議な話に解説を加えた2部構成。身の毛のよだつ話ではなく、どちらかと言えば民話的な話が多い。ずっと読んでると飽きてくるので、少しずつ読むのがお薦め。著者の親族の不思議話が、何編か出て来ましたが、著者の出身は僕の住んでる三重県。おいおい、そんなたくさん怪異のある地域って何処だよ!と気になる。2017/06/11
鷺@みんさー
17
昨今巷にあふれる怪談本とは違い、サブタイトルにあるように現代と言っても昭和50年代より以前ぐらいがメイン、また江戸怪談は様々な拾遺物語から材を取り、怪異の種別など分析しつつ、著者の感想も随所に見受けられる。民俗学的意味合いも強く、遠野物語が好きな人にオススメ。作者も好きと言っていた、「大入道に化けた狸が、屋敷の主と仲良くなり、自分の死後も子どもたちをよろしくお願いしますというと、庭に並んだ狸が一斉にぺこっとお辞儀をする話」が可愛くて好きだ。2017/09/10
qoop
12
自身の見聞きした不思議な話からその類話へ、時代を超えて広がる連想の糸をそのまま筆にしたような前半。気随に江戸怪談を繙く後半もまた、尽きず湧いてくる趣で。衒いなく自然に思いそのまま綴ったようなスタイルに、著者の中で怪談の占める比重の大きさと、挿話のセレクトから見て取れる強い志向が〈生活〉へのこだわりを感じさせる。怪談を通じて趣味と生活が近似したディレッタントなあり様を伝える随筆だった。2017/06/07