内容説明
ガイドや通訳をしながら南太平洋のバヌアツに暮らす彩実は、東日本大震災からしばらくの後、父の訃報を受けて故郷の北関東の町に一時帰国する。放射線被害についての危機感の相違や、保守的な家族たちの思考と言動に噛み合わない思いを抱くうち、「アオイロコ」という奇妙な風土病の噂を耳にする。そんな中、彩実の口中の腫瘍が悪性と診断され、入院することに――。坂東眞砂子、絶筆作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
香翠
24
板東眞砂子さん未完の絶筆長編。彼女の作品は何作か手にしたことがあり、その都度因習に囚われ身動きが取れなくなる息苦しさを覚えた記憶がある。東日本大震災に見舞われた架空の地方都市を舞台に描かれたこの作品は、実際に震災を経験した当時の記憶、それも良くないものが蘇って来るようで、これまでの作品以上に重たい物を押し付けられたような気がする。2022/12/17
JKD
14
争いや恐怖を避けるために事なかれ主義を是とし、波風立てないことを平和とする姿勢。標準から外れてはいけないという強迫観念と同時に安心を手に入れるために異質を排除する。そんな世界がいいのか悪いのか。結局は流されるままなんだろうなと思う。それでもラスト2行は背筋がゾッとした。未完作とはいえ、読み応えのある一冊でした。2017/02/25
yamakujira
10
海外に住む彩実は、東日本大震災で報じられる原発事故を知って故国を憂える。その後、父の葬儀に訪れた故郷で、放射能汚染に平然として日常を送る人々に唖然とする。故郷で増える突然死がアオイロコという風土病だと広まる噂、自分を襲った舌癌としう病魔、奇形のヒマワリやイモに無頓着な親族、彩実をどんな運命が待つのか。日本人の事なかれ主義とか原発再稼働に見える狂気とか、彩実に共感できる部分の多いけれど、故郷への愛着って故郷ある者の贅沢だと思う。この物語はどんな結末を迎えるはずだったのだろう。未完の絶筆。 (★★★☆☆)2018/05/16
悠遠
5
うーん、「死国」を書いた時の良さが微塵もない。遠い土地で「本当に大丈夫なの?安全なの?」と言う問いかけはなんというか他人事としてとらえてるんだろうな、と。その作物を育ててる人達は線量の検査をして大丈夫というお墨付きをもらわないと自分たちの生活が立ち行かないというのを知ってるからこそやるのだと思うし、やってもこの主人公のように捏造なのでは?と疑う人はけっきょく消費者にはならないだろうから。疑うなら、完全自給自足を目指すしかない。きちんと調べるのはいい事だと思うが自分が見たい方向しか見てないのではと感じた。2020/07/27
ひでお
4
著者の絶筆となった未完の作品です。東日本大震災とそれに伴う原発事故に対する日本人の反応、閉鎖的なムラ社会、そのほかどこか怪しいたくさんの人々、混沌として出口の見えない中、主人公も病を得てしまいます。 あくまでフィクションで現実の事故の状況や日本の対応と比べていささか誇張もありますが、大きく環境が変化したときに、何が真実か、に正しく目を向けることの難しさを、改めて考えなければならないと思いました。2017/08/12
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