内容説明
月は夜の眼。風は夜の鼓動。そしてぼくは夜の息子だ。ぼくの頭は溶解し始めている。トルエンとシンナー。それが、星もない昏い虚空に横たわる、ぼくだけの希望。真実は、トルエンが与えてくれる常闇の輝きと、早代子に対しての嘘だけだ―。若い女の許へと去った父。婚期を目前に焦燥に喘ぐ二人の姉。昼間から酒びたりの母。欺瞞という名の共犯意識だけが絆となった家庭の内で、幻の入口を求めて無軌道に、そして意志の赴くままに生きる少年の揺れる心理と生理とを詩情豊かに、静謐に、痛みそのものを謳いあげる青春文学の金字塔。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Noda's Rockin' Blues
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愛する彼女に去られたトルエン中毒の少年・アキラ。若い女と家を出た父と、悲しみにくれて酒びたりの母。そんな母をギリギリのところで支える2人の姉。既に家庭は崩壊しているというのに、何食わぬ顔で家族を演じ続ける彼女達に、アキラの怒りは爆発する。しかし、最も腐っているのは自分自身だった…という、ひたすらダークな青春小説。どん底まで堕ちながらも、前へと進もうとする友人・ヒロシと対照的に、アキラは全ての大人達に唾を吐き、ひたすら闇に堕ちてゆく。アメリカン・ニューシネマのような、滅びゆく者の虚しさが漂うラストも見事。2014/10/30
KGMANHOLE
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安っぽい欲望や希望はかえってぼくを茨のように傷つける。濃密な光に充たされた夏のなかで、だがぼくは闇の中で一瞬煌めいては消える一条の光を見たいと目を凝らす。それは何だ、いや、そんなものはありはしない。いつもいい加減だった真鍮メッキのぼくの青春は、やがてトンネルの底でペシャンコになるだろう。「さよならの挨拶を」2011/02/21