内容説明
『ひさし伝』『藤沢周平伝』など、現代作家の評伝で高い評価を得てきた著者が、歴史の空白に挑んだ稀代の作家・吉村昭の生涯と作品に挑んだ渾身の力作。
吉村文学を代表する圧倒的に多くの読者に迎えられた作品は、記録文学であり、戦史小説であり、歴史小説であり、伝記小説だった。
だがそこに至る道は決して平坦なものではない。郷里の日暮里と戦争体験、長い同人雑誌の遍歴などが、後の吉村文学を形成していく様子が本書では丁寧に、ダイナミックに描かれていく。
家族の重なる不幸や自身の病気、妻津村節子が芥川賞を受賞するも自身は落選が続くなど、「純文学作家」として陽の目を見ない日々を過ごすなか、ようやく39歳にして「星への旅」が太宰治賞を受賞、作家として大きな転機を迎える。
その後『戦艦武蔵』を皮切りに、歴史の真相を見据えた記録文学に活路を拓き、驚くほどの執念で数多くの資料を収集して独自の記録文学を形づくった様子も熱く語られていく。
残念なことに本書は著者の絶筆となった。吉村昭の壮絶な死を、同病にありながら淡々と記すくだりに著者の凄みが浮かび上がる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
マエダ
77
”吉村昭が信用したのは自分の眼と耳だけである。禁欲的なまでに感情を交えぬ文体。余計なフィクションを排除し、淡々と事実だけを記述する方法。事実こそ小説であると確信し、事実をもってかたらしめるという創作姿勢こそは吉村文学の真髄だった”自分が吉村昭を好きな理由を明解に言ってくれている。本書を通して自身の読んだ吉村作品の内情を知れたのはこの上ない喜びである。2018/03/24
mondo
48
著者である笹沢信も吉村昭のことが余程好きだったことが伝わってくる。本書は吉村昭の著作を時系列的に紹介、解説していくが、同時に笹沢信の目線で吉村昭の人生観が語られていく。当然、吉村昭のことを研究していなければできないことだが、著作が多いこともあり、膨大な労力を伴ったことだと思う。残念ながら笹沢信にとって本書が遺作となってしまった。本書の最終章に吉村昭の最後の長編「彰義隊」が出てくるが、吉村昭が闘病しながら「彰義隊」を推敲しているシーンと、笹沢信が全身を傾けて本書を書き上げるところが重なり泣けた。渾身の一冊。2023/05/15
kawa
36
敬愛する吉村氏、「ベスト・オブ・~」の趣き。丁度、初期作品の「海の奇跡」や「星の旅」を読んだ直後だったので、本書を手に取る時期としてもベスト。40歳前までの不遇時代、「新潮」編集長・斎藤十一氏(氏の評伝・森功著「鬼才伝説の編集人斎藤十一」も充実作)の勧めによる記録文学「戦艦武蔵」の誕生と飛躍、短編小説が生きがい(短編小説集も多い)、目が点となるような多作ぶりと過不足なしの作品紹介と、読みどころ多し。まだまだ読んでない作品が山盛りで嬉しさも100倍。本書をレビューしていただいた読み友さんに、まず感謝ですね。2023/06/23
ばんだねいっぺい
30
知っている吉村昭になるまでの前段がとっても興味深い。戦艦武蔵の上梓からギアが一段と上がり、その勢いのままという感じだ。末長く読まれ続けて欲しい作家のひとりだ。2023/11/17
Ted
9
'14年7月刊。○著者は山形新聞の記者出身の作家。食道癌に冒され、僅か半年で死去。遺作となった本書は死の3ヵ月後に出版された。川西政明による評伝『吉村昭』('08年)と同じくらい吉村昭とその作品の魅力を充分に伝えている。夫人によるあとがきにもあったが、今までの人生の集大成として旺盛な執筆欲を満たそうという正にこれからという時に突如病魔に襲われ逝ってしまった著者の無念はいかばかりかと思う。思い立ったが吉日、やりたいと思ったことは元気なうちにずんずん実行に移すべし。ただし、優先順位をつけるのを忘れずに。2016/08/15




