内容説明
本書は、日本の古い時代の伝説や記録に見られる若き二人の姫君の人生を喜劇あるいは悲劇として「戯曲」化したものです。
喜劇「むしめづる姫」は、平安時代の『堤中納言物語』にある短編「虫めづる姫君」と、『更級日記』の作者藤原孝標娘が武蔵野国で耳にした「竹芝のさか」伝説を素材に、貴族社会では異質の「虫を愛する」京の若い姫君が、やがて自らの意志で東国にくだり、竹芝に住みつくまでの物語です。
また悲劇「鶴姫」は、瀬戸内海に浮かぶ大三島の大山祇神社に伝わる文献『大祝家記』に記される鶴姫と、神社所蔵の小振りの黒い胴丸を結びつけ、鶴姫が戦国時代の武将として活躍したとする「鶴姫伝説」に基づきます。迫りくる大内海軍に立ち向かい、懸命に自らの神社と氏族を護らんとしながら、最後は十八歳で入水自殺した悲劇の姫の物語です。
作者はこれらの若い姫君達の信じられないような行いから、歴史の真実とは異なりながらも、全くの虚構とばかりは言えない「人生の真実」を見出します。