内容説明
木口木版画家・柚木のもとを訪れて弟子入りを志願した青年、東吾。柚木の歳若い妻・紗江は、どこか謎めいたこの青年に強く惹かれていく。ある日、柚木が急逝し、東吾は詩画集『水の翼』のための木版画制作を引き継ぐことに。同じ家で二人きりで過ごす紗江と東吾は、互いの想いの強さを偽れなくなっていく……。芸術と恋情のはざまで引き裂かれる男女の運命を描く、恋愛小説の白眉。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
348
版画家、柄澤齋の木口木版に強いインスピレーションを得て、一気に書き上げられたらしい。たしかに、東吾が文字通りに命を削るようにして創作に向かう姿は、芸術家そのものの姿として真に迫るものがある。ただ、それをこれまた障害をかけた紗江との恋に並置してしまったことは作品に破綻をもたらすことになってしまった。所詮は芸術と恋とは両立しえないからである。したがって、空白の4ヶ月以降は、強引な幕引きにせざるを得なくなり、そして最終的には東吾の造型をも根底から覆してしまうことになってしまい、極めて残念である。2019/09/13
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
150
これも小池文学の一つの形か。1960年代の仙台。芸術に打ち込む学生と木口木版画家柚木の妻。なかなか進展しない二人の仲は、柚木の急逝とともに一度は結ばれるが、幸福な時は長くは続かずいずれ無情にも引き裂かれることに。これほどまでに自分の所に戻ってきてくれることを待つことなんて、果たしてできるものなのか。元に戻せるチャンスはあったのに、最後についた嘘が悲しい。ハッピーエンドとはならない恋愛小説、小池作品を堪能することができました。2021/06/19
遥かなる想い
108
小池真理子の『恋』『欲望』に次ぐ作品『水の翼』を読んだ。前2作が色彩 鮮やかな激しい恋の物語りだとしたら、この本は静かで秘めやかな、でもやはり激しい恋の物語りである。小池真理子のこの種の本を読む時はいつも読了した後、もういちど最初のエピローグを読むことを常と するが、この本もやはり哀しい深いため息を感じた。それにしても、小池真理子は1970年代の三島由紀夫・浅間山荘あたりを題材にとるのが好きである。よく知らないが、作家としての出発点はここにあるのだろうか。2010/06/26
エドワード
23
紗江は年の離れた小口版画家・柚木の妻。ある日、大学生の東吾が柚木に弟子入りを願い出る。唯美主義者の柚木に認められた東吾も、静かだが内に情熱を秘めた青年だった。1970年、仙台。ヒリヒリする三人の緊張感が圧倒的な迫力で、昨今滅多にお目にかかれない、真剣勝負の愛の劇場だ。敬愛する詩人の詩画集の版画制作の途中で急死する柚木、必然的に制作を引き継ぐ東吾。ストイックな東吾と結ばれる紗江のファム・ファタルさの妖しさ、美しさ。版画を完成させた東吾が紗江に告げる別れが悲劇の始まり。柄澤齊氏の耽美的な「水の翼」が本物。2019/09/05
miyatatsu
12
小池真理子の作品を連続で5冊ほど読んでいるが、ちょっと似たようなシチュエーションばかりで飽き始めてはいるが、それでも他の作品を読みたいと思えるほど引きつけられています。2018/11/25