内容説明
プロレタリアート革命が、農民国家ロシアで勃発したのはなぜか? 党が国家を所有するという転倒した関係はソ連に何を引き起こしたのか? 「古儀式派」という宗教と党中枢との知られざる関係とは?1917年の革命~1991年の崩壊。この74年間に失われた人命は、数千万以上。ソ連・ロシア政治研究の第一人者が、ソ連崩壊後明るみ出た数多の資料を読み解いて、人類史上最大の「社会主義国家」の全貌を解き明かす。
目次
序章 党が国家であった世紀
人名解説
第一章 ロシア革命とボリシェビク
第二章 共産党とアパラチク(機関専従員)
第三章 ネップ(新経済政策)とアンチ・ルイノチニク(反市場主義)
第四章 スターリン体制とスターリニスト
第五章 世界大戦とナルコミンデル(外務人民委員)
第六章 冷戦とデルジャブニク(大国主義者)
第七章 非スターリン化とドグマチーク(教条主義者)
第八章 「停滞の時代」のなかのペンシオネール(年金生活者)
終章 モロトフとソ連崩壊
引用・参考文献
あとがき
学術文庫版への追記
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
nnpusnsn1945
64
ソ連の誕生から崩壊までの歴史を、モロトフ外相の生涯と共に描いている。ロシアにプロレタリアート階級は殆どなく、寧ろ農民が多かったようだ。しかし農民に対しては優遇どころか抑圧に近い扱いであったのは皮肉である。コルホーズは『ポーリュシュカ・ポーレ』に登場しているが、うまく機能していなかったようだ。スターリンの専制政治を経てフルシチョフ時代から核を配備するも、米国と融和的になる。ブレジネフでは軍事大国の道を歩み、泥沼のアフガン戦争に突入した。しかし経済その他諸々の停滞には叶わず、やがて党つまりソ連は崩壊した。2021/07/23
molysk
52
ソ連共産党は二十世紀最大の政治組織であり、その成立と崩壊は二十世紀最大の政治事件であった。本書はソビエト連邦の通史を、スターリンの右腕であったモロトフを縦糸として紡ぐ。冷戦終結後に公開された文書から紐解かれるのは、終わりなき権力闘争、吹き荒れる粛清の嵐であった。いまだ犠牲者の人数が明らかではない事実も、情報が秘匿された統制社会、監視社会であったことをうかがわせる。本書を手に取ったのは、ネップで勃興したクラーク(富農)が農業集団化で没落する過程が、現在の中国民営資本の行く末となりえると考えたためだ。2021/07/25
skunk_c
29
ほぼ時代と共に生きた彼の地の大政治家モロトフを軸にして書かれた通史。ひとりの人物に注目することにより、ある意味定点観測のようになっており、ぶれが少なく見通しが良いような気がする。内容はスターリン時代が中心で、何といってもその粛清の様に恐れおののく。中公新書のスターリンの伝記がかなり好意的だと言うことが分かる。多大な犠牲を払った社会実験、教訓を生かすことが大切だと思った。詳細な政治史に比べると、民衆の生活の様子が今ひとつ見えづらかったのは残念。この辺は他書にあたりたい。基礎知識を仕入れるには好適だと思った。2017/06/28
MUNEKAZ
25
ソ連の通史。「党が所有した国家」ということで、共産党内の権力闘争や人間模様が重視されている。また狂言回し役としてモロトフを配置しており、党員→スターリンの側近→外務大臣→失脚→年金生活者という栄枯盛衰が、共産党内での「スターリン」という物の扱いを示しているようで興味深い。他に著者はロシア正教の古儀式派のネットワークに注目しているのだが、こいつも古儀式派、こいつも古儀式派と人名を列挙するだけで、具体的な影響が見えてこないのは、ちょっと評価に困る。面白い切り口だと思うのだが、仄めかしで終わるので肩透かし感も。2022/03/05
BLACK無糖好き
23
ソ連共産党の重鎮として、ソビエト連邦で中心的な役割を果たしてきたモロトフの生涯に焦点を当てながら、ロシア革命から連邦崩壊までを駆け足で辿る。又、ロシア革命に影響を与えたとされるロシア正教の異端派である「古儀式派」についても随所で味付けされている。1987年にスターリン時代の粛清に関する見直し委員会が発足し、2000年1月には400万人以上の市民の名誉が回復され、この中には243万人の司法外で刑法上の処分を受けた者も含まれていたという。この膨大な数の悲劇に改めて思いを馳せると、歴史の苛烈さに目眩を覚える。 2017/04/02




