内容説明
なぜ心にこれほど深い慰めをもたらすのか。人生への力強い肯定を語るのか。「神の秩序の似姿」に血肉をかよわせるオルガン曲。聖の中の俗、俗の中の聖を歌い上げるカンタータ。胸いっぱいに慈愛しみ渡る≪マタイ受難曲≫……。300年の時を超え人々の魂に福音を与え続ける楽聖の生涯をたどり、その音楽の本質と魅力を解き明かした名著、待望の新版。
目次
はじめに
第I章 伝統からの巣立ち ──誕生からアルンシュタット時代まで
第II章 若き日に、死をみつめて ──ミュールハウゼン時代
第III章 オルガンに吹きこむ、人間の生命力 ──ワイマール時代1
第IV章 青春の抒情、新様式のカンタータ ──ワイマール時代2
第V章 幸せなる楽興の時 ──ケーテン時代1
第VI章 バッハの家庭と教育 ──ケーテン時代2
第VII章 音楽による修辞学 ──ライプツィヒ時代1
第VIII章 《マタイ》へ向けての慈愛の熟成 ──ライプツィヒ時代2
第IX章 時流の外に新しさを求めて ──ライプツィヒ時代3
第X章 数学的秩序の探求 ──ライプツィヒ時代4
補章 二十世紀におけるバッハ演奏の四段階
あとがき
参考文献
楽曲一覧
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Book & Travel
49
バッハの生涯と彼の残した数々の曲を、丹念に緻密に追った一冊。音楽を愛しその真髄を突き詰め続けたバッハの凄さと、著者のバッハへの深い知識が伝わってくる。300年も昔に作られた曲が今も心を捉えるのは、神への真摯な思いから、宇宙の摂理を表そうと追求した究極の音楽だからなのだろう。ゴールドベルク変奏曲や無伴奏チェロなどを聴くと、感情を超えて心を包み込まれるようで好きなのだが、そういう意味では圧倒的な数のカンタータなど教会音楽を聴かないと彼の真髄は理解できないのかも知れない。もう少し聞き込んで再読してみたい一冊。2019/12/28
まろにしも
15
★★★★▲ バッハ評伝の第一人者として定評のある、磯山氏の渾身の著作。年を経る毎に「マタイ受難曲」や「トッカータとフーガ」など、バッハ作品に愛着を感じるようになった。苦悩と希望、生と死が矛盾無く調和した音楽。信仰と音楽を深く追求したバッハの偉大さを改めて思い知らされました。2016/11/03
風に吹かれて
14
バイオリン・ソナタ&パルティータとかチェロ・ソナタなど私のお気に入りなのだが、それらのいわゆる世俗音楽(教会で演奏することを目的にしていない音楽)は、ケーテン時代に多く作曲されたのだという。ケーテンの教会はカルヴァン派のため音楽は演奏しなかったのだそうだ。バッハの世俗音楽は数々聴いているけど、バッハのカンタータや受難曲、そして、なんとってもロ短調ミサ曲を聴かないことには、やはりバッハを聴いたことにはならないのだろうなあ、ということを改めて思い、HMVやamazonを彷徨うことにします。2015/11/02
おとん707
13
アイゼナハで生まれアルンシュタット、ミュールハウゼン、ワイマール、ケーテン、ライプツィヒと居所を転々と変えながら不朽の名作を遺したバッハの生涯を辿ってみたくなり本書を手にした。著者はバッハ研究の第一人者だったが本書を執筆した時は研究者として活動を開始したばかりだったそうだ。そのためか素人の私にも優しい平易な文で語られ、なおかつバッハへの若々しい感動が生き生きと伝わってくる。初版から25年を経て文庫本化にあたりその後の研究成果を反映したとのことで、内容的にも古さを感じない。手軽に読めるバッハ入門書だ。 2024/04/09
うた
10
音楽を信じきり、よく学びよく奏で、そして後進を育ててまわったバッハ。本書で次々にあげられるその経歴や書き上げた楽曲の数を読むだけでも、終生続いた情熱を知ることができる。それぞれ曲の関係、使われた技術を丁寧に、しかし過不足なく取り上げる磯山さんの情熱もまたしかり。バッハの音楽に慈愛、浄化、美しさを感じた方なら、共感しつつ楽しむことができるだろう。2019/11/11