内容説明
血のつながりのやり切れなさを、鋭敏な感性でつづり、独自の文学世界をひらく。不思議な物語の魅力あふれる力作中篇集。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あ げ こ
9
祖母が死に、祖母の家を離れた母と娘達。母は怯える。娘としての生を終え、駆け出そうとも、自身を待つのは娘達の母としての生である事に。娘達は怯える。母が走り出してしまった事に。母を見失う事に。それでも彼女達は生きて行く。隙間を埋め合うよう。際立つのは父達の異物感。父達は娘達を残し、去って行った。ただ通り過ぎるのでは無く、何かを残し。自分達の生活を続ける為必要とし、執着した男…自分達を拒んだ男にもまた、彼女達はそう在る事を望んだのではないか。何かを残す事を。甘えにも覚悟にも似た報復、最後は微かな痛快さを覚える。2015/11/01
amanon
2
比較的小部の中編集とはいえ、収録作品の全てが独特の濃密な世界を織りなしており、読み応え充分。「壜の中〜」主人公のしがない駄菓子屋の主人と少女時代の著者を投影させたような利発そうでありながら、どこか危うさを抱えた少女とのやりとりには何とも言えないエロティシズムが漂っている。「火屋」のストーリーはやや分かりづらいがそこで描かれる一筋縄ではいかない人間模様はどうしようもない人間の業が垣間見られる。表題作は駄目母とその三人の娘との愛憎関係を描いたもので、ハッピーエンドともバッドエンドともいえないラストが印象的。2016/03/27
あ げ こ
2
憎悪、軽蔑、恐怖…家族内の誰かが、家族内の別の誰かに対して抱く、歪んだ負の感情。だが相手を決して捨て去る事が出来ないのは、それと同量の愛情を相手に持つ為か。例えば「壜のなかの子ども」に於いて、主人公である父親は、親として真っ当とも言える愛情と、我が子の身体に対して拭い去る事の出来ぬ屈辱感より生まれた、歪んだ征服欲に近い憎悪、この相反する感情が入り混じった心を持て余している。どれだけ傷付け合おうとも、どこかに救いを見つけ、家族で在り続けようとする彼等。その姿を痛ましくも愛おしいと感じる。2013/10/08
ウチ●
0
「快楽の本棚」(中公新書)を読み、「えっ、O.D.のご令嬢!?」と驚いたのが丁度10年前。人間の心の在り様を表現しようとしてきた作家として強く印象付けられた。今回の「我が父たち」は奇妙な味の短編集。「普通の家族」などどこにもない幻想、社会の共同体の最小単位にすぎない。眩暈のしそうな不安の中に読者が放り出されるように感じるのは、文章の視点が気づかぬうちに移動していたりするのも原因(しかも、無断でだ)。徐々に壊れていってしまう身近な人、主体と客体の突然の転換。この判然としない読後感こそ「読書」なのかも知れぬ。2014/03/25