内容説明
戦時下、畢生の大作『旅愁』を書いて東北地方の僻村に疎開していた横光利一は、そこで日本の敗戦を知る。国敗れた山河を叙し、身辺を語り、困難な己れの精神の再生を祈念しつつ綴った日記体長篇小説『夜の靴』。数学の天才の一青年に静かな共感をよせる『微笑』。時代と誠実に格闘しつつ逝った横光利一最晩年の2篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
77
横光利一は文章を以て戦争に協力したという理由で戦後、糾弾された文豪の一人でもあった。「夜の靴」はそんな彼の衝撃と疎開先での再生が描かれている。余りにもあけすけな言い方で村人から倦厭されている久右衛門に好感を抱いたりする姿は横光氏の無邪気さを表すかのよう。そして都市での食糧不足が稼ぎ時な田舎での様子は、昔、祖母の聞いた戦争中の田舎の話とピタリと合う。「微笑み」は殺人光線を研究しながらもその無垢さと人の良さで誰からも好かれた栖方。「狂気」だと言われた彼の純粋さと何かに左右される世の中の混沌さ。どちらも恐ろしい2018/12/29
フリウリ
13
「夜の靴」は、横光が敗戦間際の8月12日に疎開した、山形県西田川郡上郷村大字西目(現・鶴岡市西目)における約4か月間の生活が描かれています。荒川洋治氏の「横光利一の村」に触発されて読み始めました。荒川氏は、本書の小島信夫による解説をたいへんほめていますが、解説はまだ読みません。「夜の靴」はまったく素晴らしく、横光の「秘蔵っ子」と呼ばれた森敦が、なぜ同じ庄内地方の鳥海山や湯殿山の山裾に移住したのか、「つながった」気がしました。なお「機械」も山形での執筆とのこと。そして森敦といえば、小島信夫。92025/07/24
フリウリ
10
荒川洋治氏がたいへんほめている小島信夫の本書解説。小島は「夜の靴」を、横光の「全作品を合せたものと、一対一の関係にあるようである」といい、かつ「夜の靴」全篇を通して感じるリアリティの理由を、「国が滅びようともなお生き残るものをこそ文学というものだ、と無念に思いつつ書きつづっている日記だからであるまいか」と述べています。小島独特の視点と表現をもつ、何か深いところに触れる文章だと思います。梶木剛による「作家案内」、川端康成による弔辞、および細川書店版「寝園」のあとがきも併載されていて、読み応えがあります。92025/07/26
イタロー
3
夜の靴……敗戦後の心の遍歴を、身を寄せた地方のとある村の素描とともに書いた佳品。皮肉にも、横光利一の良い面が十分に出ている。山形が舞台だが、弟子の森敦との関連もきになるところ。2021/11/16
ダージリン
3
横光利一の作品は久し振りに読んでみたが、これまで読んだ作品とは受ける印象が異なっている。もう少し観念的なものを予想していたが、特に「夜の靴」は肩の力が抜けたかのような作品。山形の僻村の人間模様や、夫婦の会話など、どこか瑞々しさを感じさせるような筆致だ。「微笑」の方は一風変わっていて妙な恐ろしさを感じさせて面白い。2018/01/14
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