内容説明
優美かつ艶やかな文体と、爽やかで強靱きわまる精神。昭和30年代初頭の日本現代文学に鮮烈な光芒を放つ真の意味での現代文学の巨匠・石川淳の中期代表作――華麗な“精神の運動”と想像力の飛翔。芸術選奨受賞作「紫苑物語」及び「八幡縁起」「修羅」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ペグ
75
古文、古語に無知な自分が、町田康絡みで石川淳という作家に辿りついた幸運。いかにも慣れない文体にもかかわらず、その文体に釘付けになるのは日本人としての日本語に対する感性故か?「紫苑物語」が有名、名作とのことだが、私は「八幡縁起」の伝奇ロマン、スペクタクルに圧倒され。「修羅」の姫、胡魔の意志の強さ美しさに惹かれ、最後の場面、一休宗純の無常に晴れ晴れと息をのんだ。2019/06/13
HANA
65
「紫苑物語」「八幡縁起」「修羅」の三篇が収録されているが、どれも物語の持つ圧倒的なパワーに圧倒され一気に読む。平安は今昔の世で起きた出来事や神代の古事記の時代、応仁の末法の世とそれぞれ時代は違うものの、それぞれの世が圧倒的な筆力、文章力で描かれ、しかもその内容はまるで伝奇小説。弓に取り憑かれた「守」にしても欲望のまま生きる足軽にしても、山に生きるまつろわぬものにしても、それぞれの持つ業の様なものが語られつくしているなあ。著者の作品は幾つか読んだが、これほどに骨太な物語を書いてるとは思いもよらなかった。2023/12/30
syaori
57
これまで石川淳を読まなかったことを悔いるばかり! 収録3作どれにも圧倒されましたが、表題作はまさに「よく力の出た」一作。歌の家に生まれながら弓箭の道を選んだ宗頼の物語は、彼の放つ矢のよう。歌に酔いながら、狩に憑かれ血に憑かれ、流した血のあとに「いつまでもわすれさせぬ草」紫苑を植え、そうしてためたエネルギーでわすれ草の茂る頂を、岩山の仏を目指す。弓と歌と、紫苑とわすれ草と、魔と仏と。それらを彼が天に挑む気合が二つながら一つにし「かなた」から響く歌となる。それを紡ぐ言葉の強さ美しさに打ちのめされるようでした。2018/08/20
長谷川透
25
表題にもなっている『紫苑物語』を目当てに読んだが、収録されている他2篇も素晴らしかった。歴史小説の形をとっているが、次第に幻想の色が濃くなっていき、文章の美しさだけではなく「魔術的な声」(とでも言おうか)に引っ張られるようにして小説世界の虜になってしまった。小説世界を支配するのは「善ー悪」「生―死」「美ー醜」のような対比であると読んでいる最中は考えていたのだが、読後の感覚は、それらが全て綯い交ぜになり、血を糧に野一面に咲いた紫苑の花が示すように、一言では形容しがたい得体のしれない美に遭遇したような感覚だ。2012/07/18
loanmeadime
23
芥川賞の「普賢」だけ読んで、かっこいい文章を書く人と石川淳のことを捉えていましたが、何という無明でしょう。ここに収められた「紫苑物語」「八幡縁起」「修羅」は歴史小説のようであり、ファンタジーのようであり、多面的で偉大な文学作品でした。紫苑の千草、八幡の玉姫と鮎、そして修羅の胡摩、とヒロイン達も魅力的でした。日本史に弱いので一々ネットの助けを借りましたが、史実と虚構の違いに思いを馳せるのも楽しい作業でした。2020/12/21