内容説明
自分の死体を鞄に詰めて持ち歩く男の話。びっしりついた茄子の実を、悉く穴に埋めてしまう女の話。得体の知れぬものを体の中に住みつかせた哀しく無気味な登場人物たち。その日常にひそむ不安・倦怠・死……「百メートルの樹木」「三人の警官」ほか初刊7篇を含め純度を高めて再編成する『鞄の中身』短篇19。読売文学賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
63
短篇19編収録。どこか読み手を突き放したような、無駄のない文体と病的なものをはらんだモチーフ。読者の想像力を必要とする描写。ニヒリズムとダンディズムの抱合。エッセイとはまったく違う、とらまえにくい作家だという印象を強く感じさせる。2017/04/04
HANA
61
先に読んだ著者の短編集と重複する作品が多く、ほぼ既読。ただそれでも良い作品は二読三読に耐えるなあ。「子供の領分」や「埋葬」等はその最たるものだし。あと「蠅」とかは現代の蛙化現象の先取りみたいに感じて、違った意味で興味深い。あとこの本読んで思ったのは、著者の本領は未だに忘れざる「出口」のように一見現実を描いている様だが、いつしかそれが強烈な幻想に変化していく過程にあるように思った。そういう意味では表題作等は最初から書いてあるのが夢という幻想だと断られているため、その分割り引いて読まざるを得なかったかな。2025/03/15
ちぇけら
23
他人の鞄の中を盗み見るのは、どんなに親しくても、赦されないことをしている悦びがある。あまりに官能的な。きみは絶対に鞄の中をひとに見せない。肌身離さない。なかにはなにが入っているの?聞くときみは静かに笑うだけでなにも言わないから、好きだ。きみの鞄の中を想像するだけで、からだの芯がじんじん熱くなって、たまらず西の窓をあける。あなたの死体よ。きみが言ったらぼくはどうするだろう。きっとそのままベッドに倒れこみ、きみを強く強く求めるだろう。しかしもう、そんなことはできまい……。ぼくの足元の鞄は、膨らんでいて、重い。2019/07/12
501
15
昭和36年から15年間に発表された19の短編集。どれも人の奥底から染み出してくる淀んだ空気のようなじめりとした感触をもつ。はてなマークがつくのもあり宝探しという感じ。だがその宝にはまるとなんともいえないぞくりとした快感がある。なかでも印象的なのが表題作の‘鞄の中身’で最後の一文にやられた。2017/07/04
i-miya
12
2009.09.04(年譜)T13生まれ、吉行エイスケの長男 岡山市生まれ 母:あぐり、美容師 姉:吉行和子 女優 2009.09.05 物と人間の照応 (1)家庭菜園の茄子の実 (2)玄関のそばに植えた苗木 (3)川の浅瀬の小石 (4)普通のボストンバッグ状の鞄 (5)病院の便所の木製のサンダル (解説)川村二郎 人間は物より優位に立っていない 吉行淳之介は眼の人であると同時に幻視の人である そこに吉行の面目がある P007 =紺色の実= 庭の隅まで歩いていって女は蹲った 2009/09/06
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