内容説明
フロイト流の伝統的な精神分析では、<自己愛>や<依存>について否定的にとらえてきた。これらを脱却することが、自我の成長であるとするのだ。しかしコフートは、人間本来の自己愛や依存心はもっと認め合うべきだと唱えた。それは、お互いの「ギブ・アンド・テイク」が成立した時、より成熟した人間関係につながるのである。本書は、現代精神分析に多大な影響を与えた、アメリカの精神科医コフートの自己心理学を紹介。コフートはなぜ米国で支持されるのか。患者自身が高いお金を払って精神分析を受ける国では、結局、最も治療効果があり、心地良い精神療法に人気が集まるのである。その秘密を著者は丹念に分析する。コフート理論は、「エス」「超自我」といった抽象論を超えて、「共感」「自己対象」という分かり易い概念で解説しているのだ。心理学に無知な人間にとっても理解できる内容である。臨床医である著者が、心病む現代人に最も相応しい治療理論を教える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
非日常口
29
コフートの話にはSNSという視点が(時代の違いから)欠けている。イイねなどポジティブな反応を強要するシステムがあるSNSで、「多少の」脚色を加え「自分が〇〇と言われた」と被害者的内容を書くと、それが事実か確認もせず「あなたを支持する」など都合のイイ反応が出る。現実で話す人は無視しネットしか見なくなる人がいる。上辺のフォローの母数を増やせる現代、彼らの過剰な自己保身は暴力となりえる。本書には医者でない人のためのパーソナリティ障害者との距離感や、今後の付き合い方どうするかを考えるヒントになる。2016/03/01
KAKAPO
28
齋藤環先生の『生き延びるためのラカン』を読み始めた時、そう言えば、佐藤優氏の『嫉妬と自己愛』に収録された対談で、齋藤先生が「自己愛を徹底的に軽蔑したラカンに対して、コフートは“人間は自己愛がないと生きてはいけないのだ”と唱えた」と仰っていた。齋藤先生の本を読み進めるに当たって、コフートについても知っておいた方が良いかもしれない、と、2005年に読了した、この本を引っ張り出しきた。アドラー心理学などに出会った後で読むと、12年前に読んだ時よりも、コフートの治療者としてのスタンスが、理解できるような気がする。2017/04/03
黒頭巾ちゃん
19
治療や自立ではなく、心を健康にする心理学です。なので、健康であるなら誰かに依存したり、タバコを吸ってもよいのです。健康になるとは、甘えができる人です。愚痴る場面が少なくなっているので出来なくなってきているのが現状です。自己愛を満たすことができなくなってます。自己がある人です。なので、イヤなことを押し付けられても少し自己主張できるのです。自己対象が必要ともしてます。前作よりも少し学問的要素が多いです。2016/05/24
アイロニカ
6
相手の心の「自己」を観察する「共感」を通じてニーズを予測し、健全な形で依存される「自己対象」となることで治療を進める精神分析、コフートの「自己心理学」について書かれた本である。依存を重視しているだけに回避型愛着スタイルの人間は度外視されている印象。相手の心の内を自分なりにも想像して行動に反映させる社会的な重要性を改めて諭された気分だ。他方の恋愛論において依存が危険視されるのは適切な境界設定ができないからなのだろうなと推察する。でも先生だから禁欲原則でセックスできないってシチュは逆に興奮しませんかね…?2020/05/14
マネコ
6
アメリカの精神分析の主流派になりそうな勢いというコフートの「自己心理学」。フロイトと比べると人間は自己愛と依存がないと生きていけないと真逆の意見を述べます。フロイト→理性で病気に打ち勝てる。コフート→一生依存的な動物。新しい発見が多い一冊でした。2019/09/23