内容説明
映画化もされた不朽の名作がここに甦る!
昭和20年代半ば、京都で遊郭の娼妓となった片桐夕子、19歳。貧しい寒村生まれが故、家族のための決心であった。哀れに思った女主人・かつ枝の配慮により、西陣の大旦那に水揚げされそのまま囲われる道もあったが、夕子は自ら客を取り始める。最初の客で頻繁に通ってくる修行僧・櫟田正順、夕子との仲を疑われている彼が前代未聞の大事件を起こした――。
二人の関係が明白となる結末が切なく心に沁みる。実際に起きた事件と対峙した著者が、それぞれの人物像を丹念に描いた渾身の作である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白玉あずき
43
中学以来の水上勉!ずいぶんのご無沙汰だった。情緒に流れすぎて、夕子の自死に感情移入できず。ちと残念な作品。櫟田の社会に対する恨み、攻撃性はよくあるパターンだろうが、そこに夕子を配して悲恋物にした事で私的には残念な事に・・・・ 夕霧楼の同輩の単純描写、おかみのかつ枝ほどの苦労人が、夕子に対してはやたら甘くて可哀想だけで動きだすのも納得できず。戦後売春防止法施行までの移行期とはいいながら、赤線をこんなに小綺麗に描写されても・・・ 中学生の時なら素直に心打たれたかもしれない。薄情者になったかな。2021/08/22
みっちゃんondrums
30
予備知識なく読んだので、物語があの事件と関連していたことに驚いた。夕霧楼での逢瀬は、孤独な二人の魂の通い合いだったのか。誰も当人たちの本当の心などわからない。憶測にすぎない。男たちの冷たいこと。竹末などただの好色オヤジだった。櫟田も自己憐憫にとらわれているだけ。女に夢中なようでいて、仕事や使命(と思い込んでいること)のためには一顧だにしなくなる。無私無欲で男たちを受け入れた夕子、本当に恋していた夕子が哀れだ。夕子の父親も櫟田の母親も。2017/01/19
Mark
25
実際にあった金閣寺放火事件をモチーフに、遊女に身を落とした薄幸な女性の目線で語られる切ない物語です。三島由紀夫の『金閣寺』に関連する作品を調べている中で気になって読んでみました。二人の大作家が、ひとつの衝撃的な事件に着想を得て、それぞれの表現で人間や社会の理不尽さが描かれています。水上作品を読んだのは初めてでしたが、『飢餓海峡』など、映画化されているものも含め、読んでみたいと思いました。2021/08/30
Takashi Takeuchi
18
金閣寺炎上を題材に放火犯の僧ではなく、貧しい漁村から京都の遊郭に連れて来られた19歳の娼妓・夕子を主役に描く。前半はおとなしく無口な夕子からその人物像が見えず、ミステリアスに進んで行くが、後半に入ると切なく哀しいドラマが加速していく。ただ、終戦間もない時代の空気を他の小説や映画で体験していないとこの哀切は伝わり難いかもしれない。悲しい物語でありながらエンディングには何故か不思議なほどに清々しい美しさを感じ、胸を打たれた。名作。2018/09/21
ホースケ
16
運命というものに抗うわけでもなく、その道しかないと歩んでいく男と女。金閣寺放火事件を題材にしているが、そこに至る心情や動機の部分に、あまり頁を割いていないからか、三島由紀夫の『金閣寺』ほどの強い衝撃はなかった。従順過ぎる夕子の正順への思いも理解は出来ず、結末ありきの2人の物語だったのでは..と思ったりもした。京都市内の地名が実際のものと同じなのに対して、寺の名前だけは変えられていたので多少混乱はしたが、京言葉で交わされる日常会話が独特の情緒を醸し出す。百日紅の花が夕子の化身のように思え、悲しみを誘ってくる2022/04/22