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内容説明
『陸奥宗光とその時代』『小村寿太郎とその時代』に続く、岡崎久彦氏の連作評伝「外交官とその時代シリーズ」の第3弾である。読者にとって幣原喜重郎は、日本国憲法改正草案要綱を発表するなど、戦後混乱期の幣原内閣首班としての印象のほうが強いかもしれない。しかし、その政治家としての活躍で特筆されるのは、外交官試験に合格した者として、初めて加藤内閣の外務大臣に就任し、英米協調・対中国内政不干渉を基調とした、いわゆる「幣原外交」を貫いた点にあるといってよいだろう。ところが「幣原外交」は、その基調路線ゆえ、陸軍・財界・政友会などから「軟弱外交」との非難を浴びた。しかし、幣原同様、外交官を務めた著者は、そもそも非自主的、非協調的な外交など存在しないと、デモクラシーの理想を信じた幣原の信念に賛辞を贈る。歴史の評価は数十年経てようやく冷静に評価できる。そんな真理について考えさせられる、著者渾身の長編評伝である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
バルジ
1
「旧外交」と「新外交」の狭間で奮闘した幣原喜重郎をメインに日本外交史を描く。 著者は本書内で非常に高く幣原を評価するもある点で厳しく批判する。それは日英同盟を事実上破棄するような判断を一大使が行った点であり、本国にもその重要性を指摘していという点である。この批判は外交官としての現場感覚を持つ者だけが指摘し得、説得力を持つ指摘であろう。 ウィルソン的な新外交を咀嚼し近代日本で稀に見る国際協調外交を展開した幣原だが、民衆からの反発、勃興する中国ナショナリズムの前に脆くも崩れ去る様子は悲劇的でもある。 2019/04/06
フンフン
0
著者は、各時代の外交責任者の個人史を描くことで、日本の近代外交史を描こうとしている。本書は、日清戦争の陸奥宗光、日露戦争の小村寿太郎に引きつづく第3巻ということになる。幣原喜重郎の時代は第1次大戦後の国際協調の時代である。幣原が力を発揮し得た時代背景と、彼が力を喪失した時代背景がよく描かれている。前の2巻に比べて、幣原個人の「評伝」という色彩は薄まり、「時代史」という感じになっている。2015/02/02
白糸台のエアーマン
0
歴史を外交史として語る本シリーズは、読んでいてたいへん興味深くおもしろいです。それにしても「ナショナリズムが協調外交を駆逐していく状態ってのは手詰まり感びしばしできっついなー」ってのが読後の率直な感想です。2014/01/04
熱東風(あちこち)
0
筆者である岡崎氏の幣原に対する評価は高い。だが、必ずしも手放しで褒めているわけでもない。氏は相手が誰であれ、認めるべき点は認め、そうでない点はきちんと批判している。それはたとえ昭和天皇であってもだ(無論、その立場に考慮した上でではあるが)。/この本の執筆の動機は406頁に書かれているのだが、客観的な史観からの外交史を描きたいということであり、まさしくその通りの内容で、こういう本が世にもっと読まれるべきであることを、声を大にして言いたい。(以下、コメント欄に続く)2012/05/30
八重結界
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信念を貫いて自国と世界に負けた。例え幣原が現代に生まれ、同じように政治家となったところで軟弱外交のレッテルを貼られる事は間違いない。まぁ、当時よりかは批判も穏やかでしょうけど。良い意味で幣原が不要になった世界があるのなら、それをまさしく理想と呼ぶのではないか。2011/07/20