内容説明
名本の幼ななじみが連れこみ宿で死んでいた事件に続いて、今度は、モーテルの近くの山中で若い女が縊死体で発見されるという謎の事件がおこった。保護観察所の庇っている仮釈放者が、仮面をかぶって犯罪を重ねているのではないか――警察は前科者の名本に対する疑惑を深め、執拗に追及する。〈犯罪〉の虚実を探り、獣性と仏性をふたつながら内包する人間のかなしみを描く社会小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shizuka
44
謎なのが彼の人となり。投獄前はとんだ荒くれ者。仮出所後は荒ぶれたところが全くない善良な男。だからこそ前科ある者でも全うに生きられるのだと言いたかったのかもしれないが、少々違和感。警察の立場もわからんでもない。水上さんも「性善説」か「性悪説」かで葛藤している模様。ある意味実験的な小説か。なので無理ある箇所もあるがそれでも考えさせられる。人を信じるべきかどうか。その他多々問題点が提議されているが、正直、今と同じ!なんの変化もない。人間は成長しないんだな、科学は発達したとしても、を痛感。結末は夢がなく、悲しい。2019/10/06
marukuso
2
モーテルでのきよ子の不審死をきっかけに,死の前日同衾した名本は仮出所者というだけで容疑者とされてしまう。過去に殺人を犯してしまったという汚点がいつまでもつきまとい,いく先々でそういう目で見られたりする。犯罪者に限らず,人を属性や肩書きなどで判断してしまうのもわかる。実際に愚堂のように綺麗な目で見ることができるか,信頼できるかというと難しい気がする。名本の最後に至る境地はとても悲しいものであった。2022/02/20
雲國斎
0
一度前科が付くと,生きていくのは並大抵でないと実感。1980/12/11
kmiya3192
0
奥美濃のドライブモーテルで津茂川まつ子の縊死体が発見される。岐阜では真柄きよ子の事件を巡って松山刑事が愚堂和尚を訪ねた。名本を犯人をして追っていた。これに名本は東海観光の遠見という男を調べる。そうした名本に行方不明となっていた父が南紀にいることを知った。その父が亡くなった。岐阜では遠見が真柄きよ子、木島うた子の犯人として逮捕される。名本は父の遺骨を故郷の富山へと戻した。そしてその帰り名本はチンピラに腹部を刺される。命はとりとめたが、これがきっかけで津茂川まつ子殺しの犯人が名本であることがわかる。2021/06/15