内容説明
古都・金沢を舞台に、恋と青春の残滓を描いた短編集。
「金沢あかり坂」
--金沢の花街で生まれ育った凛は、別れた恋人の記憶を引きずったまま
芸妓になった。その心をいやしてくれたのは父の遺した笛だった・・・。
「浅の川暮色」
--新聞社の事業部に務める森口は、十数年ぶりに記者時代の初任地、
金沢を訪れた。夜、浅野川を見つめる森口の意識に、それまで自分の内側に
押し込めていた女性の姿が浮かび上がる。
「聖者が街へやってきた」
--北陸のK市にあるラジオ局に勤める魚谷と同僚、友人の新聞記者は、
古い城下町の秩序に挑もうとして、世界各国に打電された奇妙な事件を
作りだすが・・・。
「小立野刑務所裏」
・・・いまから十数年前、私は金沢に住んでいた。金沢は誇り高く、そして
怖ろしい町だった。著者を思わせる男が回想する金沢で暮した日々。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
30
☆☆☆☆ 金沢旅行にちなむ読書。表題作、凜の情念がこもったような笛の音色の描写が良かった。また主計町と浅野川の夜の風景の様子も良かった。モデルとなった鍋料亭の太郎は以前行ったことがあり、その風情を思い起こしながら読んだ。浅の川暮色、描かれている花街のしきたりが興味深い。若きみつの匂やかな姿に萌えてしまう。聖者が町へやってきた、ヒッピーの軍団が金沢に襲来するという設定が面白い。小立野刑務所裏、小説というよりエッセイ。五木寛之の金沢観が面白いし、そうだそうだと共感。2015/12/30
ケロコ
28
五木狂なので購入。金沢には20代のころ、母と旅した。金沢には金沢にしかない佇まいが有った。そんな金沢を大切に丁寧に昭和の頃の物語に乗せて描いていた。ノスタルジックで、切ないお話でした。2015/02/26
Junko
21
「金沢あかり坂」「浅の川暮色」は男の身勝手で、女を捨て金沢を去る。未練を抱き金沢に仕事で訪れる。男にとって、一時の感傷にすぎない。「小立野刑務所裏」私小説で、作者の金沢への思いが伝わってくる。短編4作の中で「小立野刑務所裏」が一番好き。2018/12/26
との@恥をかいて気分すっきり。
21
12月に金沢旅行に行くので、何か歴史や風土が肌で伝わる小説を読んでみたいと手にした。五木寛之氏が大きく作品に影響を残した土地であることがよく分かる短編小説集である。大正時代に井上靖が四校と呼ばれた金沢大学に入り、柔道部に明け暮れる様子を小説に描いたことでも有名である。僕も何回か金沢大学に足を運んだが、城の中にキャンパスがあった。東京であれば、皇居の中に大学があるようなものである。なんと寛大な土地柄だろうと不思議な魅力を感じた。2017/11/20
S.Mori
16
金沢を舞台にした4つの作品が収録されています。巧みなプロット、個性的な登場人物たち、余韻の残る展開と、どの作品も味わい深いです。表題作では、篠笛を吹く芸妓凛が出てきます。凛の陰影のある人生は、金沢の街のたたずまいにぴったりです。彼女の悲恋は読者の胸に迫ります。恋仲になったテレビのプロデューサーは野心に駆られて東京へ行きますが、凛は金沢に残ります。失恋の悲しみに耐えながら、篠笛を吹く凛の姿が映像のように浮かび上がってくる味わい深い短編でした。2019/08/22




