内容説明
旧家の末子に生まれた長坂進吉は、家族の深い愛情を受けて育つが、多感な少年期を太平洋戦争下に送る。出征という近い将来の現実が突きつける「死」への予感。それでも生きんとする進吉は、やがて勤労奉仕隊に動員され、生涯忘れえぬ昭和二十年一月十九日の空襲に遭遇する……。少年の成長を通して描かれる人間の運命が心を揺さぶる自伝的長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
茶幸才斎
2
小説家の長坂進吉は、新聞社主催の対談の席で、ふと3年前の兄の死を思い出す。そこから、紀州和歌浦で育った自身の少年期の家族や縁者との出来事をたどり、戦局が厳しさを増す昭和19年、勤労奉仕隊に動員された川崎航空明石工場での劣悪な労働と、米軍機による空襲から終戦までの体験が綴られる。近頃は、あの戦争の残り香を感じる機会がめっきり減った。進吉の、そして筆者の味わった恐怖と苦痛と酸鼻は、私には想像も及ばないが、私の子らには同じ体験をさせたくないという捉え方をすれば、その幾ばくかを未来に残しつなぐ力にはなれると思う。2024/04/29
こみち
0
幼少の頃に戦前、戦中を体験しながら成長していく主人公。比較的のんびりした性格なところがたくさんの局面を乗りきった感じがする。情景が目に浮かんできて、辛くもあり勉強にもなった。2015/03/11