内容説明
万延元年三月三日。銃声を合図に侍たちが駕籠の中に斬り込んだ――。反政府主義者の弾圧を行った大老、井伊直弼を襲撃する水戸藩士は、眼も開けていられない降雪のなかで、猛牛さながらに突進を繰り返した。道場剣法とは違う斬り合いの苛酷さを描いた「桜田門外の血闘」など、命のやりとりに身をさらした剣士たちの潔い覚悟を描いた士道小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ27
4
渋い渋い!かなり、その筋にはうけそう。 薩摩示現流の名人が古楽器天吸を絡めてのエピソードから始まり、唾り猫と一刀流、桜田門外事件の裏話など短編を集めている。 あっという間に読めるとはいえ、燻るような煙と共に「剣の達人」の姿態が行間からから立ち上る。 正直、疲れた。何でこんなに男は命を賭して剣を血煙で染めるのか。命?武芸人としての使命?2013/03/11
toki
1
津本陽の撃剣物はだいたい読んだと思ってたがこれはまだ未読だった。短編集だと個々の噺の純度が上がるのか、余計に切れ味鋭く感じる。また薩南示現流とか読み返したくなるな。2016/09/11
やっさん
1
津本陽さんの短編集。バラエティに富んだ時代の剣客達の生き様がとても生き生きと描かれていて面白かった。桜田門外の変では、道場では腕に覚えのあった剣客達が実践ではまともな型を発揮する余裕がなかったこと、力任せに刀を叩き付けて曲げてしまったり刃こぼれどころか刃が削げ落ちてしまったことなどのエピソードが興味深い。刀って、なんとなく普通に持って普通に斬りつけたら人を斬れると思ってたけど、ちゃんと斬り方があるらしい。 仇討ちに備えて、刑死体を調達してきて実際に切ってみるシーンなど、面白い本だった。2010/11/06
かんたろう
0
睡り猫の話が印象に残った。身のこなしが速いだけではダメ、剛健な気を発するだけでもダメ、思うて和をなすだけでもダメ。「ただ思うこともなく、なすこともなく、自然の威に従い働くときは、われは象なし」と言う。いま稽古している合気道にも通じるところがあって面白かった。2013/02/03
shikami
0
剣にまつわる短編集。剣に造詣の深い作者だけあって、剣術についての細かい描写、臨場感ある戦闘場面は、そういうものが好きな人は楽しめるだろうが、あまり興味のない人にとっては少し度が過ぎていると思うかもしれない。各話に共通していたのは、道場でいくら技を磨いていたとしても、実戦ではあまり役には立たないということ。よっぽどの素質と経験と運がなければ剣で名を成すことなど不可能であること。桜田門外の変に関する話が二話収録されているが、ほどんど同じである。どういう意味があるのだろう。とまれ、一気に読めて楽しめた。2010/10/23