内容説明
全七作からなる歴史小説短編集。
豊臣秀吉による朝鮮征伐の前半・文禄の頃、一通の文箱が博多の津に打ち上げられ、秀吉の許に届けられた。中の手紙は半島に渡った夫を思う妻のものであった。興味を持った秀吉はその女を名護屋に呼び寄せたが……(「汐の恋文」)。
関ヶ原の戦いの前に大坂方の人質になるのを拒み、火を放って果てた細川ガラシャ。その嫁である千代はガラシャと死を共にせず生き残った。細川忠興の嫡男・忠隆は、父の命に背き千代を離縁せずにいたため、遂には廃嫡されてしまう。しかしその後も忠敬は千代と共に暮らし続ける(「花の陰」)。
戦国時代や江戸時代の女性・夫婦の旧来の像に著者独自の新鮮な解釈を投げかける、珠玉の短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
115
戦乱の時代から江戸初期の戦う妻たちを、妻目線で描いた短篇七つ、いいですね。面白いです。出世を捨てても、夫婦ともに生きることこそが幸せと決断する夫婦など、現代に通じる夫婦の姿に感銘した。印象に残る一作は【汐の恋文】だ。一通の文箱が博多の浜に打ち上げられる。秀吉の命で朝鮮へ出兵した夫の安否を祈る妻が書いた文だった。天下人・秀吉を前にして命を捨てる覚悟で自分の意(秀吉の失政をほのめかす)を口上する妻の潔さが凛凛しく美しい。武士の妻としての強かさも感じた。2017/02/27
はたっぴ
88
久しぶりに葉室さんの作品を堪能した。戦乱の世の縛られた結婚生活で、睦まじく愛を育んだ夫婦の物語。あの時代、家臣を束ねて家を存続させることの難しさはいかばかりか。時には数年に渡る策略を巡らした戦国武将たち。夫婦が共に命をかけて時代の荒波を乗り越えていかなければならなかった厳しく残酷な世界。そこで生きる人々の矜持が伝わる、ホロリとして読み応えのある作品ばかりだった。とりわけ苦境を忍ぶ女性達の潔さが大きな魅力だ。著者の鮮やかな筆力により、夫婦や親子、家族の情が細やかに描写され、丹精込められた一冊となっている。2016/11/17
Smileえっちゃん
71
戦国から江戸初期の九州を舞台に、武士の妻の生き方を描かれた、短編集。自ら信じる道を進む凛とした生き方に、清々しさを感じます。中で「汐の恋文」「きんぎんじょ」「牡丹咲くころ」が心に残ります。葉室さん、大ファンで、限りある作品、一冊読み終わるごと、読む本が減っていくのが寂しいです。2019/02/25
ケンイチミズバ
71
朝鮮出兵に異をとなえ、反意した梅北国兼の妻爽子を弱火で苦しめながら火炙りにした秀吉があまりにも憎々しい。秀吉の面前で無念の思いを伝えた親友菊子の凛々しさ、妻菊子を人質にとられ、打ち首覚悟で戦地朝鮮から戻った采女の凛とした姿に心うたれました。暴君のもとに淀さま懐妊の知らせが届き、夫婦は処刑は免れるも、秀吉が死ぬまで朝鮮で無駄に命を散らした武将たちの忠義心を思うと無念でならない。本とにクソだな、秀吉。異国の地で戦う夫への思いを綴った文の中には船の沈没などで届かなかったものもたくさんあるのだなあ。2016/07/11
みっぴー
69
戦国時代、焦点を当てたのは、華々しく戦場で活躍する大名や武将ではなく、家を守る女性。つまり嫁。女の目から見た戦国時代は、どのようなものだったのか……一作目『汐の恋文』秀吉の部下が、浜で拾った手紙。その手紙には深い深い秘密が隠されていた。加藤清正の娘、八十姫が主役の『くのないように』は、母から子、そして父から子への愛情が溢れていて、序盤から泣きそうになりました。八十って本当に良い名前だと思いました。『牡丹咲くころ』や、ガラシャ一家の『花の陰』も良かったです。葉室さん、どんどん開拓したいです。2017/09/08




