内容説明
実証的研究を目指す書。
王朝和歌文学を、従来的な表現研究、伝記研究、書誌研究の枠組みだけではなく、言語学・歴史学・社会学といった人文科学の隣接分野、理系の情報処理研究と結び合うものとして、実証的に研究を展開していく。
様々な分野の観点と手法を、個別にではなく、相関的・総合的に関わらせながら考察し、なおそれらが各研究分野に対し何らかの提言となるように進めていく。
第I部・王朝和歌研究の方法、第II部・初期定数歌論―N-gram分析から見た古典和歌、第III部・源氏物語論―言語と和歌史の観点から、第IV部・古代後期和歌の諸問題、第V部・言語研究としての展開、の5部14章より成る。
【本書で述べる各種の方法論は、決して目新しさを目的として導入したものではない。文系の研究と理系の研究の境界を取りはらい、社会科学における新しい概念を取り込み、また、グローバルな視点で日本の古典文学研究を行うとはどういうことかについての筆者なりの提案である。】……「総論」より
【千年の歴史を経て、なお輝く王朝和歌とは、文学という枠組みだけに収まるものではないのであろう。それはどのような現代的方法によった分析にも揺らぐことは無い。むしろ、新しい方法や概念で、その多様な側面を一つでも引き出されることを待ち望んでいるかのように思う。複数の学問領域に実りをもたらすものであるという、その本質が正しく示されるように、本書がその一歩になればと願っている。】……「おわりに」より
目次
第I部●王朝和歌研究の方法
第1章 総論 王朝和歌研究の方法
付節 和歌とジェンダー―ジェンダーからみた和歌の「ことば」の表象―
1 ジェンダー批評と和歌研究―一九九〇年代の動向
2 歌の「ことば」の男性性・女性性
3 「恋する」「かれゆく」「言はましものを」
4 新たな読みを拓く
第II部●初期定数歌論―N-gram分析から見た古典和歌
第2章 古今風の継承と革新―初期定数歌論―
1 はじめに―革新の温床としての初期定数歌
2 詠歌方法としての「返し」―定数歌の骨格をなすもの
3 「順百首」の位置―「返し」の手法の確立と「韻律」の形成
4 「好忠百首」「順百首」から「重之百首」へ
5 「重之百首」の目指したもの―遊技技巧歌の世界と古今的美意識の融合
6 ふたたび好忠へ―新表現誕生の背景
7 おわりに―形式・方法と表現
第3章 曾禰好忠「三百六十首歌」試論―反古今的詠歌主体の創出―
1 はじめに
2 競作としての初期定数歌
3 「三百六十首歌」の独自表現―「重之百首」から「三百六十首歌」へ
4 「三百六十首歌」の時間表現を一覧する
5 「いそぐ」世界―反古今的時間の形成
6 男絵の世界としての「三百六十首歌」
第4章 『恵慶百首』論―N-gram分析によって見た「返し」の特徴と成立時期の推定―
1 「恵慶百首」の成立をめぐる諸説
2 「恵慶百首」は四定数歌と共通する語句・語形を何組有するか
3 「恵慶百首」における先行定数歌の受容と作歌方法
4 「恵慶百首」遊技技巧歌部における複数句取りと四定数歌との前後関係
5 「遠目」の「山桜」
6 「恵慶百首」の成立時期試論
第5章 相模集所載「走湯権現奉納百首」論―誰が「権現返歌百首」を詠じたか―
1 はじめに
2 寺社奉納詠としての「初度百首」―奉納の幣に和歌を書き付けるということ
3 「権現返歌百首」作者の定説への疑問
4 「権現返歌百首」に見る「藤原定頼らしさ」
5 女流歌人にとって書き記すに足るもの
第III部●源氏物語論―言語と和歌史の観点から
第6章 男と女の「ことば」の行方―ジェンダーから見た『源氏物語』の和歌―
1 勅撰和歌集の「ことば」と物語の「ことば」
2 源氏和歌の男・女を『古今集』の「ことば」で検証する
3 女性の「ことば」がゆらぐ時
4 閉塞する薫―中心としての男性性を失う続編世界
5 浮舟の歌の「ことば」―「知る」を中心に
6 規範からの解放
第7章 『源氏物語』の「ことば」/浮舟の「ことば」―「飽く・飽かず」論―
1 問題の所在
2 「飽く」の意味/語形/『源氏物語』での用例数
3 『源氏物語』における「飽かずを核とする語形」を一覧する
4 妻としての序列
5 「飽かずを核とする語形」の有する規範性
6 柏木・薫・匂宮―女に執着する男たち
7 光源氏―女性・政治への執着から自己を省みる「ことば」へ
【付】 藤壺と紫の上
8 浮舟の「飽きにたる心地す」と「飽かざりし匂ひ」
8―1 「飽きにたる」―「憂き世」との訣別の「ことば」
8―2 「飽かざりし」―死者を回想する「ことば」
第8章 紅梅の庭園史―手習巻「ねやのつま近き紅梅」の背景―
1 はじめに
2 兼輔邸の紅梅
3 内裏の紅梅
4 邸宅の紅梅
5 紫式部と紅梅
ほか