内容説明
太平洋戦争を機に海を渡り、戦後も帰国せずにその地で生きることを選んだ「日本に帰らなかった日本人」。インドネシア、台湾、サイパン、ポナペ、韓国、中国、ロシア、キューバに暮らす10人とひとりひとり言葉を交わし、終戦の混乱の中で下した選択、生き方を寄り添うように描く。
取材から完成まで20年の歳月をかけた渾身の書下ろしノンフィクション。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
チェアー
12
話を聞いていて、相手が黙る瞬間がある。はっとする。そこに語られないものの重みを感じる。この本で記されていることは、日本や世界の歴史の一部だが、そう普遍化すると抜け落ちてしまうものが多い。あくまで個人の歴史だ。だからこそ、語られないものがあり、聞き手は立ちすくむ。巻末にある各地で暮らす日本人の写真に衝かれる。氏名不詳、日本語も現地語も話せないという人もいる。どうやって暮らしているのか。考えると胸が塞がる。2016/04/28
kawa
11
【16年良かった本再読】終戦の時、「希望が迷って」ジャワ島に、「義母を置いてけなかった」と台湾山岳地帯に、「またすぐ行き来できる」と韓国に、「生き残るのが一番」と八路軍と行動を共にした看護婦さん、「身体の弱い奥さんや子供を捨てれず」に帰国船を目前にシベリアに・・・残った人等々、時代に翻弄された人達の傑作ドキュメント。「運命」はいったいどのようにしてここに登場する人物を選んだのだろうか。著者のねらいの通り、「過ぎ去った時間の中で生きた人たち」の人生が「今を生きる自分」に繫がった、繋がなければと思う。2016/12/02
kawa
8
また、凄い本に出合ってしまった。戦前戦中に戦争・移民で海外に渡った日本人、各々の事情で帰国し(でき)なかった人々に対するインタビュー・ドキュメント。著者は「後書き」で、取材から20年の年月を経てようやくの出版だと言い(ほとんどの方は亡くなっていると思う。合掌)、年月を経た結果、一人一人の息遣いや体温がより感じられようになったと記している。あえて、それぞれの心の闇に迫るのではなく、淡々と記述することで、却って、その人生がリアルに蘇ってくるように思う。各章の最後に掲載される著者によるポートレイトもグッとくる。2016/04/05
エリ本
6
戦後日本に帰ることなく、そのまま異国の地で人生の終盤を迎えた方々のルポルタージュ。壮絶な人生を歩んできた現在のポートレートが、皆かくしゃくとしていて驚いてしまった。人間は本来どんな状況にも耐えることができる強さを持ってるはずなんだ。時代が違うとはいえ、あれは嫌だこれはしんどいなんて言ってられないなと思った。2024/04/13
がんちゃん
4
なぜ日本に帰国しなかったのか。そこにはそれなりの事情や考えがあり、人にはいえない涙や苦労もあったはず。だけど、少なくても俺なんかよりはよっぽど自由だったのではないかと思った。国境をぽんと越えてしまうということ。硬直したナショナリズムなんかもぽんと飛び越えてしまう。それなりの事情はあるにせ、ぽんと飛び越えていく勇気に裏付けされた自由さとでもいうのだろうか。これもグローバリズムってことなのか。だったら昔の方がよっぽどグローバリズムだったんだなぁ。2016/06/15