内容説明
北海道、浦河。襟裳岬に近い過疎の町に「べてるの家」がある。精神障害を抱える人たちがみずから共同住居と作業所をいとなんで、長い年月が過ぎた。
特産の昆布からさまざまな商品を作って売る。これがべてるの活動の根幹である。そのユニークな自己表現は全国から注目を浴び、地域社会とともに新しい道をさぐる姿に共感が集まっている。
けれども、ここまで来るにはじつに語りつくせないほどの苦労があった。病を持ちながら一人の人間として生きるとはどういうことなのだろうか。べてるでは、効率優先の現代社会とはひと味違う原則が貫かれている。無理はしなくていい。治さなければと焦ることはない。「そのままでいい」のだ。悩みを持つ仲間と語り合い、ともに過ごす。そこには弱さを絆にした豊かな人間関係が息づいている。
なぜこのような生き方が可能だったのか? それを問いはじめた著者を待ちうけていたのは、自分自身の精神の漂流だった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
90
精神分裂病と闘う人々の物語である。 精神に病を抱える人々が共同生活を送りながら、生きていく…北海道襟裳岬に近い町にある共同住居「べてるの家」… 外からはわかりにくい病と闘う個々人を 丁寧に取材した、そんな作品だった。2023/03/09
優希
56
精神障害を抱える人たちが集まり生活しているべてるの家。べてるの家の創立から、地域に受け入れられていく様子、生活する人々が書かれています。精神障害は治療の対象なのかという疑問に正面から答えてくれています。支えなければならないという意識は健常者が作り出した幻想なのではないでしょうか。障害者という言葉は健常者の社会に生きているから生まれる言葉であり、障害者の中にいればそれが当たり前のことなのです。あるがままを受け入れるべてるの家の人々は、悩みもあり、幸せかは分かりませんが生き生きと生活しているように見えました。2014/11/20
えちぜんや よーた
26
若年期に統合失調症を発症した人々が集まる「べてるの家」の物語。人間の「内的理性」についてのヒントがあると思います。みすず書房さん、こういう本、出すの好きやなぁ参考文献→「夜と霧」「これからの正義の話をしよう」2012/08/22
nbhd
23
思考の様式とか内容といったものを粉々に砕かれて、マァこれっていったいどうやって受け止めたらいいんだろうと言葉を失うような出会いが年に数回あって、つい最近だと、Eテレで放送していたバリバラ「幻聴さんと暮らす~”べてるの家”の奥深い世界」をまさに言葉を失いながら見た、大いに笑った。今のところ「統合失調症を生きる人たちの共同生活」について思ったことを、積みあげて表せるような言葉が見つからない。それは「良い」ではない気もする。いや間違いなく「良い」だけど、それじゃ足りない。で、まず知ってみようと思って読んだ。2016/10/27
こばく
8
だめなままを肯定する統合失調症の人びとの共同生活。「自立」や「社会復帰」は誰のための言葉だろう。まだ考えがまとまらないが、久しぶりにどえらい本を読んでしまった。2010/07/19