内容説明
妻と喧嘩し、あてもなく街をさまよっていた男は、風変りな帽子をかぶった見ず知らずの女に出会う。彼は気晴らしにその女を誘って食事をし、劇場でショーを観て、酒を飲んで別れた。その後、帰宅した男を待っていたのは、絞殺された妻の死体と刑事たちだった! 迫りくる死刑執行の時。彼のアリバイを証明するたった一人の目撃者“幻の女”はいったいどこにいるのか? 最新訳で贈るサスペンスの不朽の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
537
新訳が出てずっと気になっていた。二度目だが楽しく読めた。序盤は文章の風味はあるものの、少し単調に感じるが、ロンバートが出てきてから展開もスピーディーになり、俄然面白くなってくる。というより、序盤は不可思議状況を演出しようとするあまり、ツッコミどころ満載。なんでソコ誰も気にしないの?と思うところだらけ。それらが予定調和的に紐解かれていく様に不思議なカタルシスがある。終盤の展開は、今読んでも質の高いどんでん返しではあると思う。"あり得ない""ご都合主義"のスレスレを攻めて上手くまとめきった名作。2018/06/06
ヴェネツィア
441
最初の章が死刑執行日の百五十日前。読者には、スコットが犯人でないことがわかっている。幻の女を追い、彼の無実を証す探偵役は親友のロンバートと恋人のキャロル、そしてバージェス刑事の3人である。章を追うごとに、死刑執行の日は刻々と迫ってくる。これが、この方法をとった最大の効果だろう。途中で不可解に思うことが次第に昂じてくるが、結末ではそれが見事に解消される。さすがに、謎解きの前に読者にも事件全体の構図は読み解けるのであり、その意味では最後の事件の解説はやや蛇足めいて感じられるかも知れない。 2024/12/06
Kircheis
438
★★★★★ アイリッシュの代表作。 無実のスコットは妻殺害の容疑で死刑判決を受け、その冤罪を晴らすためには名も知らぬ行きずりの女を探すしかない。死刑執行までの残り日数が各章のタイトルになっており緊迫感を煽る。 スコットの親友ロンバートと恋人のキャロルが、それぞれ別の方向から幻の女の手がかりを追うが、両者とも毎回あと少しのところで掴み損ねるのがもどかしい。 令和のミステリ読者からすれば、真犯人についてはそれほどの驚きはないかもしれないが、幻の女(と思ってた人物)の正体の方はびっくりするのでは?2022/06/26
紅はこべ
265
稲葉訳はもう何度も読んでいるので、犯人もトリックも当然覚えていて、初読の時のハラハラ感はなかったが、犯人の心情を想像しながらという読み方ができた。改めて気づいたのが、キャロルの怖さ。バーテンダーとドラマー、二人を死に追い込んでおきながら、二人への謝罪の気持ちが微塵もない。特にバーテンダーに対してがひどかったな。スコットは妻、幻の女、そしてこのキャロルと、女運が悪い宿命を負っているのかも。今後も幸せになれるかどうか疑問。再捜査で、犯人の目星がついていながら、四人も死者を出したのはバージェスの失態。2019/05/04
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
198
「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。」美しく有名(らしい)な一文で始まるサスペンスの古典。 妻と喧嘩し街をさまよう男は、行きずりの女性とひと時を共に。然して家に帰ってみると妻は殺されていた。アリバイを握るその女性を、彼の目撃者は一様に「見ていない」と主張する。 俄かにホラー的怖さ、幻想的な雰囲気が漂いだし、死刑宣告までの時間が迫る中なかなか紐解けない謎の数々。 お、おおお面白いー!!世界の中心で面白さを叫びたい♡あまりの面白さに速読の能力を身につけたくなりました。名作です。2019/02/10