内容説明
“御本山”の黒い森をみつめて、白い闇の道を歩いた女の20年……。一種底の知れない、暗く混沌とした世界の中で、病める魂の咆哮を聞く芥川賞受賞作『無明長夜』。“捨てる”ことを根源に、自らの道を開こうとした著者の、戦後の出発を語る『豊原』。ほかに『寓話』『終りのない夜』など、新しい世代の世界とイメージを持って、多様な才能を遺憾なく発揮した作品群。ほか『静かな夏』『生きものたち』『わたしの恋の物語』全7編を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
248
第63回(1970年上半期)芥川賞受賞作。古山高麗雄との同時受賞だったが、吉田知子は世代的には64回受賞の古井由吉等の、いわゆる「内向の世代」に属する。とりわけ、この小説では彼らとの同質性は強い。もっとも、この後吉田は変貌してゆくのであり、「箱の夫」(1998年)などでは、もう別人のごとくなのであるが。さて、表題作だが、定位された世界も、登場人物(語り手も含めて)も、ことごとく陰鬱である。シンボリックな御本山も、光明よりは闇で覆うかのようだ。そして行き着く先はどこにもない。物語には一貫して諦観が付き纏う。2015/08/11
遥かなる想い
188
第63回(1970年)芥川賞。 夫 吉彦の失踪をきっかけに 御本山へと 向かう妻の心理を丹念に描く。 語り合う友もなく、居所がない私の心象風景は 諦念が基本にあり、希望も望みも見えない …全編がひどく暗く、ひたすら 晴れない 霧の中を進む感じで、オドロオドロした 感覚のみが残る作品だった。2017/09/03
kaizen@名古屋de朝活読書会
110
【芥川賞】はじめから最後まで出てくる御本山。実体がうまくつかめない。夫が行方不明で実家に帰っている主人公。神院という御本山の関係者。玉枝という亡くなった友人。母親、義母はじめ人と人との関係が希薄で、実体が掴めない。2014/02/22
うえうえ
14
地獄絵図。読んでいると欝々となる。短いが濃密。端正な文章。他のも読んでみたい。昭和45年上半期芥川賞受賞作。三島は異常な才能と選評で評価。次の下半期には古井由吉の杳子が受賞しているが、三島の選評はもうない。2018/07/16
三柴ゆよし
12
人を選ぶことは間違いないが、内田百閒や川上弘美の世界観が好きなら気に入ると思う。「寓話」、「豊原」が傑作。芥川賞を受賞した「無明長夜」は、こういうタイプの小説にしては冗長すぎる気がする。個人的には、『箱の夫』のほうが好きだ。2009/08/14