内容説明
故郷を離れている間に友人と結婚した恋人に、美しい湖のほとりで再会したラインハルトは、過ぎ去った青春が戻らないことを知って去ってゆく。――若き日の恋人に寄せるはかない老人の思いを綴る『みずうみ』。併録の『ヴェローニカ』は、死の予感のはしる美しい人妻の痛ましい恋を、『大学時代』は、貧しい美貌の少女の可憐な反逆を描く。いずれも詩情あふれる美しい恋物語である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
13
大学でドイツ語を第二外国語に選択した友人が原文で読んでいました。これが読めるようになるなら、私もドイツ語を選択しておけばよかったです。お話は、初恋は実らないを絵にかいたような物語です。老人になった主人公が思い返す初恋をリリックに、ノスタルジックに描き出し、初恋のよすがとしてのエリカと睡蓮の花が美しい余韻として残ります。青い空と白い雪をいただいた山のイメージが「山のあなた」のような感じで美しかったです。でも、主人公が思いが通じ合った後一回でも手紙を書いていたら結果は違っていたと思うんですが!2015/12/12
マーブル
11
過去の経験を清算、昇華するために書かれたような小説。優柔不断さを非難したり、確たる約束もせずに女性が待っているものと信じた愚かさを批判することもできるだろう。が、得も言われぬ魅力もある。書いたのは作者32歳。すでに法律家として身を立てていた彼がどんな気持ちで過去の思い出を小説という形にしたのか。後悔。あるいは未練。または憧憬。老人の回顧という体裁からも一時の熱情は影を潜め、距離をおいて描くことができたのではないか。スキャンダラスな展開になるのだろうかという読み手の心配をよそに淡々と、詩的に時間は流れる。2024/08/24
azimuth
9
郷愁、叶うことのない幼い恋、うつくしい自然、敬虔な人々。(私の独断と偏見に満ちた)ドイツ文学のイメージを体現したかのような物語。「みずうみ」と「大学時代」は、時間的空間的広がりとしてはわりと広いのに、こじんまりとした小品にまとめられているがために、濃密。一文一文大事に読まなければ良さを味わったことにはならない、そういう意味では詩のような作品ともいえる。三作品共通して多角関係が扱われており、しかも泥沼にはまることはなく、清廉で爽やかなのが興味深かった。2012/02/22
yajimayajiuma
7
全編通して文体が詩的で美しい。「みずうみ」の苺摘み、「ヴェローニカ」の水車小屋、「大学時代」の散歩やきいちご蝶採集等、自然の描写が大変魅力的。恋愛ものには正直興味がないのだが、こうした語りであれば受け入れられる。若干心情が分かりにくい(行動原理ではなく文章的に)点や、ローレが補足もなくレノーノと呼ばれる等、読みにくさもあるが、総合的には好ましい。「みずうみ」から漂う哀愁が特に好みだった。冒頭からそれを感じるが、ラストにおける寂しげな余韻がいい。老人がかつての恋を振り返る切なさが魅力的だ。2024/05/30
白のヒメ
7
ドイツの作家シュトルムの短編。最も情緒的な作家と言われるだけあって、その文章はまるで絵画を眺めているかのように絵的で、センチメンタル。物語自体も老人の青春の回想なので、薄い美しいベールにくるまれているかのような印象を受ける。結局、主人公の男が見たロマンティックな情景を、幼馴染の少女が同じ色では見ていなかったという事なのだろう。現実的に結婚に向いている他の男と少女は結婚したというだけの話としてしまうのには、あまりにバッサリ感があるけれど。でも、それが女だったりもするのも本当だったりして。2013/08/22