内容説明
東京帝大の学生時代は北一輝に心酔し、官界に進んでからは革新官僚として満州の経営に辣腕を振るった岸信介。敗戦後はA級戦犯容疑から総理の座に昇り詰め、高度成長を発進させて昭和の妖怪とも呼ばれる。かたや教師から立身のため満州国軍人となった青年は、戦後、韓国軍の中で頭角を現し、クーデタで政権を掌握。独裁者となって漢江の奇跡と呼ばれる高度成長を達成する。朴正煕と岸信介、二人の揺籃の地、満州国の遺産を問う。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
89
日本がまだ大日本帝国と呼ばれていた時代の日本と満州の関係、韓国への影響が述べられています。昭和に実権を握った岸信介と朴正煕は大日本帝国の生命線である満州でその権力を支える人脈を築き、その力は現在の日韓経済にまで及んでいるというのが凄いと思います。満州は歴史上の国となってしまいましたが、帝国として存在していたときはアジアを震撼させる国であったことは間違いないでしょう。戦後の日韓の枠組みとなった満州の虚実を問うことで現代の我々のあり方も問いかけているような気がします。2016/07/07
nnpusnsn1945
40
朴正煕と岸信介の生涯から、両者に共通する満洲国との関わりを描いている。前者は満洲国軍の中尉、後者は官僚として縁があった。クーデターで大統領となった朴正煕の政策を見ると、実は満洲国でとられた物を流用しており、特に重工業化や、統制経済、愛国精神運動(国旗掲揚は『国際市場で逢いましょう』でそんなシーンがあった。他にも西ドイツの労働者派遣やベトナム戦争といった朴政権の政策も出てくる)などが関連している。セマウル運動は植民地時代の政策を参考にしたらしい。2024/10/24
Mzo
12
興亡の世界史シリーズ。岸信介と朴正煕を題材に、満州国と戦後の日韓の歴史が述べられる。近現代史を考える時は、どうしても太平洋戦争の終戦を境に別々の歴史と捉えがち。だけど実際には決して不連続ではない、ということに改めて気付かされる。ただ、満州国史についてはもう少し知りたかったな。2020/09/18
CTC
12
16年6月講談社学術文庫。単行本は10年、同社100周年記念企画[興亡の世界史]シリーズで刊行。ポストコロニアル批評の姜尚中と…玄武岩氏=北大大学院社准教授(社会情報学)による。日本の高度経済成長の基礎は、重工業への重点的な資源配分による振興と、社会保障充実などによる民生向上、であるという。市場経済を容認しつつ政府主導の計画統制で成長を図るモデルは、「満州国の傾斜生産方式」による工業振興と社会政策そのものな訳だが…韓国の成長モデルもまた、満州国陸軍軍官学校金時計組の岡本実=朴正煕による同様手法だった…。2017/04/18
ふぁきべ
10
興亡の世界史シリーズ唯一の日本に関連する一冊。日韓の戦後史に大きな足跡を残した岸信介と朴正煕、そして彼らが満州国の遺産であるという興味深い議論を展開する。岸についても朴についてもそこまで深く知識を持っていないため、その議論が成立するかについては判断ができかねるが、朴正煕が日本が作った傀儡国家である満州国なくして生まれなかった「怪物」であり、岸は戦前を引きずったような政治家であったことから、彼らを満州国の遺産とみなすかはともかく、深く影響を受けていたことは間違いないだろう。2023/08/04