内容説明
すれ違う子供が泣き出すほどの醜男の、愚直な恋のゆくえ(「甚三郎始末記」)。騙されていると知りながら待ち続ける遊女の哀しき運命(「風を待つ」)。自ら始末をつけるべく散り急ぐ男に、残された妻の覚悟を描く表題作など、心に染み通る5篇。四季の彩り溢れる情景と、男女の一途な愛を細やかに綴る傑作時代小説。解説・大矢博子
感想・レビュー
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がらくたどん
59
地域の公民館で朗読を聴かせる催しがあり、たまに読み手を任される。解説の大矢さんが男女の「始末記」と巧い事を仰っている通りの時代の倫理と身分の枷をどうにか自分の心内に納め時には捻じ伏せながらの来し方への始末の付け方が描かれる短偏集から「女、ふたり」。請われて大店の娘を娶った小商人は女房が好きで好きで好き過ぎて、妬くは僻むはの挙句に女郎買いに逃げる阿呆者。そんな男を愛おしみ続けた女房は擦れ違う想いの始末を付けようとするが。相思相愛の擦れ違いが嬉し哀しの物語。地方小藩の四季折々を感じながらの愛の時代劇場が5編♪2023/03/17
にゃおんある
29
仄かな恋心を持つという、そういう隙ができる。この時代には、生まれ定められた枠の中で生きるしかない。生の一回性は、武士の潔い解悟に向かって、切先の煌めきを受け入れるほかはない。きっと外国人には、こういう美徳は理解できないと思う。無論、後悔もあっただろうけど、ケジメの付け方が格好よかった。最近、忠臣蔵とか時代劇をテレビでやらなくなってしまったし、アスリートも美男美女ばかりで、甚三郎のような人間は少なくなって、ケジメという言葉もあまり聞かないし。両手を上げて、やがてすずろかになっていく想いをまな裏にたゆらせて。2019/02/20
真理そら
26
『火群のごとく』と同じ架空の小舞藩を舞台にした短編集だが、続編ではない。散り急ぐ男たちが描かれているが、表題作の紋十郎の行動がそれまでの日常とうまくつながらなくて納得できないまま読み終えた。『花散らせる風に』がなんとなく葉室麟っぽくて好きかも。2018/12/03
はるき
22
切ない時代短編集。甘くはない話だが、後味は悪くなく、寂しさや虚しさなど人生の機微を巧く表現している。2016/03/21
ぶんぶん
19
架空の小藩を舞台にした「女の戦い」、愛する者の為に一途に貫く恋の道。 梅、菊、桔梗、竜胆に桜、花の香を纏わせながら一人立つ。 なかなか良い短編集である、女たちの心根が泣かせる。 あさのあつこ、何でも書ける作家である。 児童文学者というレッテルはもう古いのだろう。 と言っても児童書は少ししか読んで無いのだが・・・この作家の時代小説は、目が離せない。2017/01/09