内容説明
火星の荒涼たる大地に刻み込まれた歴史と伝承――はじめて地球人としてその神秘を垣間見た若き詩人と、美しい舞姫との間に芽生えた、悲しくも美しい愛の詩「伝道の書に捧げる薔薇」、金星の大海原に潜む巨大魚竜イッキーとの死闘を詩的に描き、ネビュラ賞を受賞した「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」など、アメリカン・ニュー・ウェーブを代表する作家ゼラズニイによる初期の代表作15篇を収録した珠玉の短篇集
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
48
うしろのほうに収録されている短めの短編は他の短編に比べて中身が薄い傾向にはあるものの、一冊を通してどれも設定の魅力と文章の流麗さをそなえていて読んでいて楽しかった。原文の特質が正しく伝わっているのかはわからないが、ゼラズニイの作品はハードボイルド風の特徴的な文体が印象に残りやすい。感傷を帯びた内容の短編が多い本作には詩的で美しい表現も散見し、文章との相乗も感じられる。「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」や「十二月の鍵」「伝道の書に捧げる薔薇」「このあらしの瞬間」が特によかった。短いものでは最後に収録2020/07/05
Aminadab
25
ゼラズニイほぼ初読み。1960年代の中短編集。1937年に編集者キャンペルが出て「賢い小説」になったSFは、50年代に成熟期を迎え、60年代には多様化を遂げて作家ごとに様々なスタイルを模索する。ゼラズニイはその時代を代表選手だが今読んでもすごく恰好いい。超絶的な語学の天才が火星の秘密に挑む表題作はじめ中編のドライブ感もいいが、ごく短い短編の切れ味もいい。表題作と同じくらいの有名作「その顔は…」以外では「十二月の鍵」と「このあらしの瞬間」が刺さった。しかしやっぱりSFってジャンルは中短編が面白いなあ。2021/06/04
ワッピー
23
読み友さんにご紹介いただいた「これぞゼラズニイ!」アンソロジー。15編の精華と併せてアメリカSF界でのゼラズニイの評価を浅倉久志氏の解説で認識できたことも収穫。続けて読むと、Boy meets Girl型・永い時間の生・最愛者の喪失というパターンは見えてくるものの、自然の猛威と向き合うダイナミックな「死すべき山」「このあらしの瞬間」、ややコミカルな神話劇「怪物と処女」「愛は虚数」、逆転もの「聖なる狂気」「コリーダ」と幅広いテーマを楽しめました。ワッピー的にはシュールな笑いの「重要美術品」が印象的でした。⇒2021/04/01
波璃子
23
タイトルがかっこいいので思わず手に取る。中身も劣らずかっこ良かった。巨大魚竜や天使、神話をモチーフに使った夢を見ているような作品が多かった。表題作をはじめ「十二月の鍵」「この死すべき山」「愛は虚数」が好き。こういう渋くてかっこいいSFは60年代のアメリカならではだと思う。映像にするならモノクロやセピア色が似合う。2015/05/27
H2A
13
ゼラズニイ初期の作品集。表題作の『伝道の書に捧げる薔薇』、『十二月の鍵』、というより長めの中編はどれも良い。ひと昔前のような火星や金星をあえて舞台に選んでいるが、文体に勢いがあり相応に作り込まれていて、その小説世界には独特の魅力がある。短編も『超緩慢な国王たち』はユニーク。隙のない完成度、というよりちょっと崩した感じが逆に格好良く小気味よい。傑作作品集。2024/03/20