内容説明
アイツにとって、俺は、うたかたのような存在でしかなかったのかもしれない。でもあの時の幸福は、うたかたではなかったと思う――。チンピラの焦がれる恋を描く表題作ほか、大阪で彼を待つタミ子や、障害を持つわたしの実らぬ思いなど、自分を「消え去る泡」のように感じてしまう5つの恋を描いた、切ない短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
78
面白かったです。おせいさんの初期の恋愛短編集。みずみずしくて、生きることの切なさを感じました。恋することの迷う味はほろ苦くて。好きな相手との距離を紡ぐには近づくか偶然しかないというのが何気なく郷愁を漂わせます。ユーモアは殆どありませんが、こんな寂しくて綺麗な恋愛ものも好みです。2017/05/28
優希
74
おせいさんの初期の短編集です。みずみずしくありながら消え去ることも考えてしまうのが切ないと思いました。恋をすることはほろ苦く、好きな相手と距離を近づかせるのに何気ない郷愁を感じます。寂しくて美しい恋愛ものでした。2019/12/07
ぷく
19
何年か前、立ち寄った雑貨屋で「消えないシャボン玉」というのが売られていて心底驚いた。シャボン玉は、すぐに消えるからこそ美しいし、心を捉えるのだと思っていたから。まさにうたかたの夢だと思っていたから。いつまでも風に漂うシャボン玉の、なんと残酷なことか。田辺聖子の逝去の報に、ふとそんなことを思い出し、何十年かぶりに引っ張り出してきた一冊。「うたかた」の、ひらがなの形といい、響きといい、私はこの言葉がとても好きだ。表題作の他、『大阪の水』『虹』を挙げる。乾いた涙の清々しさに、未来が見えるよう。 2019/06/19
さきん
15
恋愛短編集。1960年代の恋愛事情。20代半ばから30代まで、結婚も視野に入った恋愛。著者の男性に対するまなざしがやさしい。虹とうたかたが特に気に入った。2017/11/18
冬子
7
田辺聖子の初期の作品。「大阪の水」「虹」「私の愛したマリリン・モンロウ」がよかった。「うたかた」p55.人間なんてうたかたみたいなもんだ、ーただ、恋したときだけ、その思いが人間自身より、生きているようだ。「大阪の水」p98「勘定は合うてる。損はしてない。うちはそう思うてる。」「虹」p159甘美な思い出だったが。いまは涙もなかった。2016/01/12