内容説明
我らが主人公メヴルト・カラタシュは、12歳のときに故郷の村からイスタンブルに移り住む。昼間は学校に通い、夜は父とともにトルコの伝統的飲料ボザを売り歩く日々を重ねて、彼は次第に大都会になじんでいく。そしてある日、彼はいとこの結婚披露宴で運命の恋をした――ノーベル文学賞作家が描く、ある男の半生と恋と夢、そして変わりゆく時代。『わたしの名は赤』でノーベル文学賞を受賞した著者の新たな代表作となる傑作長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
93
イスタンブルの路上でヨーグルトとボザ売り稼業を行うメヴルトを主人公にしたパムクの長編。午前は学校へ行き、午後から父親とヨーグルトを売りに出る若者が、一度しか会ったことのない女性に運命的出会いを確信し恋文を送り続け駆け落ちをする。夜の闇から連れ出した相手を見ると、少女の姉ライハである。結果オーライなのか、パムクの小説は、燃え上がる恋愛には程遠いところにある。いつまでもボザ売りをしているメヴルトに魅力がないのは残念、下巻でどうなるか。黍を発酵させて造られるボザって、どんな味がするのだろう。2020/08/31
starbro
74
前回の「黒い本」に続いて、今回は最新作、オルハン・パムク4作目です。本作はイスタンブールの市井の男性の半生記、庶民の暮らし中心で読み易い内容となっています。日本もトルコも戦後の厳しい生活環境はあまり変わらない気がします。1980年代も行商を行っていますから、日本の10年遅れ位でしょうか?本作の主人公同様、高校をさぼって悪友と日活ロマンポルノを観に行ったことを想い出しました。トータルの感想は下巻読了後に。2016/05/09
NAO
62
ずっと思い続けていた恋人と駆け落ちした夜、彼女を初めて灯りの下で見たときにメルブトが感じた違和感。メルブトの違和感を、ただ恋人に対するものだけでなく、近代化が進むトルコで起きている様々なことにまで広げていくという構成がおもしろい。田舎の村からイスタンブールに出て来て、時代の波に乗って成り上がっていく親族とは距離を置いたまま、昔から変わらぬままの生活を続けるメルブトは、近代化に乗りきれないというより、近代化を拒んでいるようでもある。2016/09/27
syaori
34
従兄弟の結婚式で一目ぼれした少女に手紙を出し続けて3年。とうとう彼女と駆け落ちしたしたその日、自分が3年間手紙を出し続けていた相手、駆け落ちした相手は少女の姉だった、という始まりに呆然。もちろん主人公も呆然。上巻ではそこから遡って、主人公メヴルトが父親が出稼ぎに来ているイスタンブールへ出てきてヨーグルトを売りながら成長し、街に馴染んでいく様子が描かれます。奇妙な食い違いで一緒になったライハと、「違和感」を感じながらも幸せな家庭を築いているふうに見えるメルヴト。この違和感に答えはあるのか、下巻も楽しみです。2016/08/16
Kazehikanai
30
村からイスタンブールに移り住み、少年から青年へと成長していくメヴルトの物語は、変わりゆく街と時代の中、学業から落ちこぼれ、政治や民族運動に翻弄され、駆け落ちしてささやかな幸福を味わいつつも、夢は破れていく。そうした青年期の様々な葛藤をどこか落ち着いてやり過ごしていく主人公の中に、漠とした違和感がある。この違和感の正体は何なのか。時代も境遇も違うが、不思議と募るこの青年への共感の正体は何なのか。輝かしい青春物語とは違うが、誰もが通る青年期の青春物語の何かがある気がする。とてもいい。下巻に期待。2016/08/21