内容説明
比類なく美しい庭園オーブランの女管理人が殺害された。犯人は狂気に冒された謎の老婆で、犯行動機もわからぬうちに、次いで管理人の妹が自ら命を絶つ。彼女の日記を手にした「私」は、オーブランに秘められた恐ろしい過去を知る……楽園崩壊に隠された驚愕の真相とは。第7回ミステリーズ!新人賞の佳作となった表題作の他、醜い姉と美しい妹を巡るヴィクトリア朝犯罪譚「仮面」、昭和初期の女学生たちに兆した淡い想いの意外な顛末を綴る「片想い」など、異なる場所、異なる時代を舞台に“少女”という謎(ミステリ)を描き上げた、瞠目のデビュー短編集。/解説=瀧井朝世
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
490
デビュー作「オーブランの少女」を含む、深緑野分の第1作品集。5つの短篇を収録。表題作、「仮面」、「大雨とトマト」、「片想い」、「氷の皇国」のそれぞれは、第2次大戦中のフランス、20世紀初頭のロンドン、現代の東京の片隅、戦前の高等女学校、時代不明の北の皇国が物語の舞台に選ばれている。この人は、こうして物語に一定の枠組みを持つ「世界」を設定することで、かえって自由に語っていくのを得意とするタイプの作家であるようだ。そして、その特性は、この後の『戦場のコックたち』や『ベルリンは晴れているか』に活かされてゆく。2022/07/18
Tetchy
334
洋の東西を問わず、現代から近代・中世まで材に取りながらも、まるで目の前にその光景が、更には色とりどりの花木や悪臭などまでが匂い立つような描写力は実に秀逸。プロットは正直単純だが作者の目くるめくイマジネーションの奔流に巻き込まれ、濃密な時間に浸れる。それはまるで作者がしたり顔で杖を振るって微笑みながら見せてくれるイリュージョンのようだ。物語の強さにミステリの謎の強さが釣り合っていないが、私は寧ろミステリとして読まず、作者が語る夜話として読んだ。この作者には物語の妙味として謎をまぶした作品を今後も期待したい。2017/05/05
黒瀬
163
時代や国が違う五篇からなる短編集。巻末の【氷の皇国】は米澤穂信さんの【折れた竜骨】を彷彿とさせるような世界観で夢中になって読み耽りました。表題作との共通事項は冒頭でちょっとした事件が起こり、その背景に大変なドラマがあったことが明かされる形式であるということ。どうやって冒頭の結末を迎えるのだろう、大昔に何があったのだろうという叙事詩としても楽しめる逸品。特別カバー版で表紙を飾った環=〇〇が登場する【片想い】も好き。エスやお姉様など、昭和初期の独自の文化で結ばれた蠱惑的な共犯関係は戦火の炎をも跳ね除けるだろう2021/02/02
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
138
私はあの頃楽園を信じきれなくて美しいものを集めてはいつか失望すること(されること)を恐れて過分に残酷になれた。とりどりの花の名前は知らなくて鮮やかな色あいだけを記憶。光に満ちた楽園がいつか終わると知っていたなら別の選択もできたろうか、悔恨は甘酸っぱく輝くsouvenir。いつまでも浸ることが今のよろこび。硝子細工は隅々まで灯りを届けるから嫌いです。隠してよ醜いものなど嘲笑って。幸せなどいくらでも手に入れることができると傲慢に笑んだあの頃の私は(貴女は)美しかった。今は美しい灯りも素直に好きと言えるのです。2021/01/10
yumimiy
131
初読み作家、5話の短編、どれも程よく残酷なところがいい。女性版乙一のZOOって感じかな。フランス、イギリス、日本、北欧と1話1話舞台は様々で繋がりはないがキーワードは少女。個人的には一番残酷な「オーブランの少女」と疑心暗鬼に陥る「大雨とトマト」が好き。特に大雨とトマトは上手いと感じた。食堂を営む夫婦と16歳の息子。10年間通い続ける謎の中年男、ある土砂降りの日、中年男と見たこともない少女が来店。たったこれだけの登場人物なのに店主のテンパった妄想が暴走する。誰にでも負の心当たりはあるがまさか!の黒笑もんです2021/12/27
-
- 電子書籍
- 召喚された賢者は異世界を往く ~最強な…
-
- 電子書籍
- ある愛の幻【分冊】 4巻 ハーレクイン…
-
- DVD
- 激流 ~私を憶えていますか?~
-
- 電子書籍
- 月のしっぽ 2 マーガレットコミックス…
-
- 電子書籍
- 隠れ浪人事件控 悪徳掃除 学研M文庫