内容説明
比類なく美しい庭園オーブランの女管理人が殺害された。犯人は狂気に冒された謎の老婆で、犯行動機もわからぬうちに、次いで管理人の妹が自ら命を絶つ。彼女の日記を手にした「私」は、オーブランに秘められた恐ろしい過去を知る……楽園崩壊に隠された驚愕の真相とは。第7回ミステリーズ!新人賞の佳作となった表題作の他、醜い姉と美しい妹を巡るヴィクトリア朝犯罪譚「仮面」、昭和初期の女学生たちに兆した淡い想いの意外な顛末を綴る「片想い」など、異なる場所、異なる時代を舞台に“少女”という謎(ミステリ)を描き上げた、瞠目のデビュー短編集。/解説=瀧井朝世
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
492
デビュー作「オーブランの少女」を含む、深緑野分の第1作品集。5つの短篇を収録。表題作、「仮面」、「大雨とトマト」、「片想い」、「氷の皇国」のそれぞれは、第2次大戦中のフランス、20世紀初頭のロンドン、現代の東京の片隅、戦前の高等女学校、時代不明の北の皇国が物語の舞台に選ばれている。この人は、こうして物語に一定の枠組みを持つ「世界」を設定することで、かえって自由に語っていくのを得意とするタイプの作家であるようだ。そして、その特性は、この後の『戦場のコックたち』や『ベルリンは晴れているか』に活かされてゆく。2022/07/18
Tetchy
335
洋の東西を問わず、現代から近代・中世まで材に取りながらも、まるで目の前にその光景が、更には色とりどりの花木や悪臭などまでが匂い立つような描写力は実に秀逸。プロットは正直単純だが作者の目くるめくイマジネーションの奔流に巻き込まれ、濃密な時間に浸れる。それはまるで作者がしたり顔で杖を振るって微笑みながら見せてくれるイリュージョンのようだ。物語の強さにミステリの謎の強さが釣り合っていないが、私は寧ろミステリとして読まず、作者が語る夜話として読んだ。この作者には物語の妙味として謎をまぶした作品を今後も期待したい。2017/05/05
黒瀬
163
時代や国が違う五篇からなる短編集。巻末の【氷の皇国】は米澤穂信さんの【折れた竜骨】を彷彿とさせるような世界観で夢中になって読み耽りました。表題作との共通事項は冒頭でちょっとした事件が起こり、その背景に大変なドラマがあったことが明かされる形式であるということ。どうやって冒頭の結末を迎えるのだろう、大昔に何があったのだろうという叙事詩としても楽しめる逸品。特別カバー版で表紙を飾った環=〇〇が登場する【片想い】も好き。エスやお姉様など、昭和初期の独自の文化で結ばれた蠱惑的な共犯関係は戦火の炎をも跳ね除けるだろう2021/02/02
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
138
私はあの頃楽園を信じきれなくて美しいものを集めてはいつか失望すること(されること)を恐れて過分に残酷になれた。とりどりの花の名前は知らなくて鮮やかな色あいだけを記憶。光に満ちた楽園がいつか終わると知っていたなら別の選択もできたろうか、悔恨は甘酸っぱく輝くsouvenir。いつまでも浸ることが今のよろこび。硝子細工は隅々まで灯りを届けるから嫌いです。隠してよ醜いものなど嘲笑って。幸せなどいくらでも手に入れることができると傲慢に笑んだあの頃の私は(貴女は)美しかった。今は美しい灯りも素直に好きと言えるのです。2021/01/10
nico🐬波待ち中
122
「少女」を共通モチーフにした短編集。国も時代設定も様々な少女達。どの少女も時代の波に翻弄されても、時にしたたかに懸命に知恵を絞り、時代を駆け抜ける姿が清々しく好感が持てた。特にヨーロッパの史実にミステリーを組み込ませた表題作と、深緑さんには珍しい日本を舞台にした『片想い』、架空の北国を舞台にしたミステリアスなファンタジー作品『氷の皇国』が面白い。深緑さんの短編は初めてだったけれど、どの短編も一捻りあってとても面白く夢中になった。これからもこんな短編集や、長編のファンタジー作品も読んでみたい。2019/01/22




