内容説明
露ぶかい山繭の村、奥信濃の有明から、京都の西陣に奉公に上り、美しい風光の中で、雅やかな西陣の女へと磨かれてゆく刈田紋。つづれ職人・松吉と密かに愛し合い、心惹かれながらも、日本画壇の長老・今畑冬葉の後妻となった紋は、夫の死後、何処へともなく失踪する……。愛憎に絡まれた哀しい女人の物語を、伝統美あふれる西陣つづれ織の世界を背景に、情感豊かに描く長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
marukuso
2
長野の有明から西陣にやってきた刈田紋はその美貌から次々と男に魅入られる。仕事上の立場から断れず、日本画家の今畑冬葉に嫁ぐ。織子の松吉と淡い恋愛関係にあるが、紋は松吉を裏切り行方をくらますのであった。西陣織の織り機の音が聞こえるような情景である。2016/10/17
アメヲトコ
2
信州の山繭の里から奉公に来た美貌の女と、彼女に恋した西陣のつづれ職人。彼女は心清らかな女性なのか、それとも名利を求めるしたたかな女性なのか。西陣の社会構造と絡ませた物語が読ませます。相変わらずカバーのあらすじはネタバレが過ぎるので見てはいけません。2016/06/27
東森久利斗
1
古都京都と京都人の根底に巣食う憑物、西陣織のように優美に複雑に織りなし脈々と流れ燃え続ける情念の灯。執拗に執念深くまとわりつき、ときに人生をも左右する得体の知れない妖力。畏怖…・2020/03/04
shizuka
1
美貌ゆえに運命に翻弄される女性の話。50年以上も前の世間一般の常識、風習、風俗によりなかなか自分の気持ちを言うことができない。いまだったら、こういう結末にはならないだろう。水上さんの完全なる創作と思って読んでいたのだが、実はある放火事件がもとになっている。それを終盤になって読者につきつけてくる手法に驚き。放火の犯人はまったく違う女性なのだが、そこからこの主人公の女性を見出し、小説を書き上げたのはさすが。いつものように、そこはかとなく切なくて、悲しい仕上がりになっている。紋は幸せな生涯を送れたのだろうか。2013/10/02