内容説明
鬼童子信之は、過激派の同志虐殺と〈八ケ岳山荘事件〉に連座して獄中にいる長男・乙彦に面会することも、進んで弁護士をつけることもしない。信之は、息子には息子の、自分には自分の生き方があるという信念を貫き、職を辞すこともなく、マスコミの取材も拒否した。そのため、彼と家族への世間の指弾は一層厳しさを増す。連合赤軍事件を潜在的テーマに、家族とは何かを問う長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おかむら
40
あさま山荘事件をモデルにした小説。立松の「光の雨」以外になんかないかと探して見つけた。1979年発行。立て籠り犯の親が主人公。成人した息子の犯罪に親の責任はないという法律上の立場を貫き通す信念の父親。平成の今でもそんな態度は世間が許しちゃくんないのに昭和にこんな小説あったのかという驚き! 他にも国家公務員の女性キャリア問題とか時代を先取りしてます。メロドラマ部分の古臭さも案外楽しい。円地文子初めて読んだけどけっこうイケる! 2017/08/13
ねこまんま
35
浅間山荘事件がモデルですが、犯人の父親の態度を通した父権と家族関係の話なので事件そのものはほとんど出てきません。ずばり「親に、成人した子供の行動の責任はあるのか」この頃と世間の価値観って全然進歩してないと思うので今読んでも全く古く感じません。しいていえば最後に香苗からの手紙があるんですが、今時の20代半ばの学生にはなかなか書けないであろう内容に驚きました。もとい、ちゃんとした手紙なんてそもそも書くことがないので、今の私にもたぶん書けません。内容が重い割にはメロドラマ的な展開でとても面白かったです。2017/08/24
しゅん
10
「山岳ベース、あさま山荘(をモデルにした事件)の犯人の父親が、謝罪も辞職もせずに信念を貫くことで更なる悲劇に襲われる小説」と聞いていたからどんな暗澹とした気持ちになるだろうと思ったら、意外にも楽しい。メロドラマ風に恋愛模様や親子関係が描かれていて、ちょっと馬鹿っぽいくらい。気取った会話のリアリティのなさは特に笑ってしまう。後半に行くほどに緊張感がなくなったよ!感情描写されてた人物がいつのまにかシームレスに移っていくあたりに技術を感じます。2018/07/18
sabosashi
6
戦後史においては常に保守ないし右翼が流れを推し進めてきたので左翼というコンセプトはジリ貧にならずにはいられず、ついにはサヨクとまで呼ばれることになる。こんな書き方をするとどこまで脱線してしまうのかわからないが。代々木系に対する反代々木系は世界同時革命を志向するがそれさえあまりにヨーロッパ・パラダイムに隷属された考え方。それがニホンでは赤軍が極北へと至ってしまう。学生には好きなことをさせておいてもいいのだが、その結果が家庭に持ち込まれたときにどんな事態に至り、全国からどんな扱いを受けるかが詳細に描かれる。2014/04/17
子音はC 母音はA
4
円地文子さんの目のつけどころは素晴らしかった。リンチ殺人事件を起こした赤軍メンバーの息子ではなくその父親を主人公に据えた事は慧眼だ。真に革命を目指してたのは息子ではなく、近代社会の法が規定した(個人)を頑固に守りぬいた父にある事がこの物語で証明されている。赤軍メンバーの息子が引き起こした凄惨な虐殺事件に、父親は(世間)に対して敢然と子の責任は親には関係ないと主張し今まで通り仕事を続ける。近代が生みだした、(個人)という概念は日本の社会では未だ成熟してない事を嘆く。2014/08/05